よみがえる春高でのサーブミス

　ディフェンス面の成長に加えてもう1つ、著しい進化を見せたのがサーブだ。

　昨季までは比較的ふわっとした軌道でレシーバーの手前で落ちるサーブを打ってきたが、効果は少なくミスも多い。実はサーブレシーブ以上に、サーブへの苦手意識は強かった。

　振り返れば、理由は高校3年の春高、準決勝の東九州龍谷戦までさかのぼる。インターハイ、国体を制し、三冠を目指した試合はフルセットまでもつれる大熱戦だった。

　2－2で迎えた最終セット。11－13の場面で石川が放ったサーブがネットにかかる。その1点がすべてではないが、結果的に終盤の反撃機会を失った下北沢成徳は13－15で第5セットを落とし、準決勝敗退。三冠の夢は潰えた。

　トラウマ、と言うには少し大げさだが「春高を思い出すとあのシーンしか出てこない」と振り返るほど、石川にとっては色濃く残る失敗の記憶。卒業から2年が過ぎてもなかなか払拭できない時間が続いていた。

「やっぱり大事な場面でミスした記憶って、すごく大きくて。もともとサーブは苦手だったんですけど、あれ以来、サーブは嫌だな、とより強く思うようになっていました」

勝ちパターンの1つになった石川のサーブ

課題の1つであったサーブが改善され、東レの武器となった　©Yukihito Taguchi

　いつまでも苦手のまま、逃げているわけにはいかない。緊急事態宣言が発令され、個別練習の時間も増えた今季、石川はサーブの練習に時間を割いた。スパイク同様打球に体重が乗るように、トスの高さを安定させ、ハードヒットできる位置を探る。兄の石川祐希（パワーバレー・ミラノ）や、西田有志（ジェイテクトSTINGS）の活躍で日本代表が4位と躍進した2019年W杯を参考に、何本も打ち続けた。

　その成果は重さが増したサーブとして現れ、シーズン中も随所に威力を発揮した。石川のサーブで崩したところで「いいよ！」とセッターにトスを呼び、バックアタックでブレイクを重ねる。それは東レの勝ちパターンの1つとなり、連勝につながる要因にもなった。

　チームの主将を務める黒後はこう語る。

「すごいなぁ、私もこんなプレーがしたいなぁ、っていつも思うんです。自分の2年目と比べてもはるかに安定しているし、比べるのが申し訳ない。真佑のおかげでチームみんなが生きているし、私も私でいられる。これからもずっと一緒に頑張っていきたい存在です」

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