バレーボールPRESSBACK NUMBER
優勝は逃したが…東レ女子“21連勝の立役者”石川真佑20歳の「頼もしい」成長ぶり 2つの課題を克服できたワケ
posted2021/02/25 17:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Yukihito Taguchi
東レアローズ・石川真佑が今季、途中交代を命じられたのは、2度目だった。
1度目は1月30日のNEC戦。思うように攻撃が決まらず、第2セット序盤に交代を告げられてベンチに下がるも、カイロがなければ凍えるほど寒いウカルちゃんアリーナ(滋賀県立体育館)のアップゾーンでジャージは着ない。その背中から、声が聞こえるようだった。
「私を出せ、出してくれ。もう一度、やり返すチャンスがほしい」
その願いが通じたのか、3セット目から再びコートに戻った石川は明らかにギアチェンジ。「めちゃくちゃ悔しかった。取り返しにいかなきゃ、と燃えていた」と、得意なコースに放つサーブが威力を増し、さらには高さ、角度、どちらも“えげつない”スパイクを次々打ち込んだ。自ら得点をもぎ取った結果、セットカウント0-2からの逆転勝ちに貢献した。
そして2度目。それは2月21日、Vリーグ決勝だった。
レギュラーラウンドは負けなしの21連勝。9年ぶりの優勝に向けて死角はないように思われた東レだが、しかし相手は因縁のJTマーヴェラス。リーグ戦の最中、昨年末に開催されたトーナメントの皇后杯決勝ではJTに敗れ、優勝を逃している。今季唯一、しかも肝心な時に黒星を喫したJTとの、頂点をかけた再戦――同じ相手に負けてなるものか、と石川は燃えていた。
石川には最強ブロッカー2枚を配置
意気込む石川と東レに対し、レギュラーラウンドでは2度敗れているJTは万全な対策を講じてきた。
JTが意識したのは、もちろん東レが誇る黒後愛、石川、ヤナ・クランの3枚のアウトサイドヒッターだ。ヤナの得意なコースにはレシーバーを入れ、黒後と石川にはサーブでプレッシャーをかけて助走を削る。なおかつ、石川が前衛時にはアメリカ代表アンドレア・ドルーズ、タイ代表タットダオ・ヌクジャンと最も強いブロッカーを2枚揃えた。
ブロックの間や横を抜くことも、当てて弾き出すことも、飛ばすこともできない。放つスパイクがブロックに止められるたび、石川はセッターへ向け「私が悪い」と胸に手を当て、天を仰いだ。
第2セット中盤、石川は交代を告げられ、ベンチに下がった。3セット目には再びコートへ戻るも劣勢を跳ね返すことはできず、セットカウント1-3。喜びに沸く勝者が称えられるセレモニーの最中、NEC戦では「早く出せ」とばかりに熱を放っていた背中は、後悔に満ちているように見えた。
「コートに立っている自覚、責任が自分の中にはあって、でも、苦しい時に支えてくれるのがこのメンバー、このチーム。だからやっぱり、勝ちたかったし、このメンバーで絶対に優勝したかった。それなのに、大事なところで自分の弱さが出てしまいました」
JTから最も封じたい相手と警戒されたのだから、それだけでも今シーズンに石川がどれほどの役割を果たしてきたかは十分すぎるほど示している。だが、だからこそ打ち克てなかった自分が悔しい。試合後の記者会見では、目を赤くし、何度も言葉を詰まらせた。