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「黒人には無理」と言われて“本塁打王”になったハンク・アーロンがキング牧師に言われた一言とは?【追悼】
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKYODO
posted2021/01/26 17:00
初の日米ホームラン競争を前にバッティングポーズを披露する王貞治選手(左)とハンク・アーロン選手
彼は生前、人種差別された自分の経験を話すことはあっても、白人社会に公然と挑戦するようなことはなかった。それはアメリカンフットボールやバスケットボールに比べると「何かと保守的」と批判される野球界の遅々とした動きと似てもいる。
アーロン氏はかつて、人種の融合を唱えた公民権運動の穏健な指導者であるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師に「自分には何ができるだろうか?」と問いかけ、「他のことは我々が対処するので、君は心配しないで我々のためにプレーし続けてくれ」とアドバイスされたというが、その事実をしっかりと捉えてみると、キング牧師が過激な言動で知られた黒人指導者マルコムXとは対照的だったように、アーロン氏もアリ氏とは対照的に、「自分なりのやり方」を考えて動いていたのではないかと思う。
そして、それはBlack Lives Matterが時として暴動や略奪行為に繋がり、前大統領の支持者が米議会で破壊行為を行うような事態になった今では尚更、重要なことのように思える。
「唯一、自分以上に賞賛すべき人間なんだ」
アーロン氏とは対照的な言動をしたアリ氏自身が生前、こう語っている。
「ハンク・アーロンは私が唯一、自分以上に賞賛すべき人間なんだ」
穏健派であれ、急進派であれ、すべてを包み込んでしまうのがアーロン氏のやり方であり、その偉大な人間たちの強い思いは確実に、後世の人々に語り継がれていく。