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【引退】早熟の天才・前田俊介はなぜトリニータで輝けたのか “美しすぎるボレー”など超絶テクニックと、ある変化
text by
柚野真也Shinya Yuno
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/01/17 11:01
「前俊をあきらめない」。Jリーグ好きの“合言葉”になるほど、前田俊介はロマンあふれる天才肌のアタッカーだった
前田がプロキャリアで最も充実したシーズンは2011年だったのではないか。この年は30試合に出場して8得点をマーク。J2とはいえ、05年にJ1広島で記録した26試合5得点の記録を更新。出場試合、得点でキャリアハイを記録した。
「家族ができ、子どもができて頑張らなアカン」
何が変わったのか――。それを前田に尋ねると「別に何も変わらない」と返答。しかし、話を進めていくうちに、出場機会を求めて大分、FC東京と移籍を経験し、天才と呼ばれ続けた男にしか分からないであろう胸の内に秘めた思いを明かしてくれた。
「技術云々やなくて気持ちの部分なんですかね。家族ができ、子どもができて頑張らなアカンと思うようになった。今季でここ(大分)とは契約が切れるんで、延長するにしても他(のチーム)に移るにしても結果を出さんことには契約はしてもらえませんから。僕らはプロといっても1年1年で評価される契約社員。家族がいるわけやし、無職になるわけにはいかんので(笑)」
1.5列目に下がったことで覚えた楽しさ
加えて、もうひとつ心境の変化があったとしたらサッカー観である。
ポジションが1.5列目に下がったことで、かつてはFWは点を決めさえすればいいと語っていた男が「自分で決めるんもチャンスをつくるのも、どっちも楽しい。チームの勝利に貢献できればいい」とプレースタイルや考え方が変った。
シャドーに配置した当時の田坂和昭監督は、「シュン(前田)の特徴は、自由にボールを持ち、ドリブルで仕掛け、キープもできること。前線で構えるより、サイドに流れてボールを受けたり、サイドから中央に切れ込んでシュートを打てるシャドーのポジションの方が生きる。それを彼自身が理解してくれた」と前田の適性を見抜いていた。
「攻撃にばかり目がいくようだが、最近のシュンは味方がボールを奪われたら、誰よりも早く守備をする。何が変わったかってよく聞かれるが、僕はいまのシュンしか知らないので何とも言えない。ただ、悪い部分はきちんと指摘するし、納得していなければ1対1で話しをする。変わるか変わらないかは聞く耳をもっているか、いないかの差じゃないかな」