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【箱根駅伝】青学大・原監督が大会直前に泣いた日 “走れなかった主将”神林の本音「なんで自分なんだ…」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2021/01/03 19:50
前回大会の9区で力走する青学大・神林。区間賞を獲得し総合優勝に貢献した
「神林には10区を走ってもらいたい。もしも品川の八ツ山橋で立ち止まって、棄権してしまっても構わない。来年、予選会からやり直したっていいんだ」
監督は泣いていたという。その言葉を聞いて、神林は素直にうれしかったが、その申し出だけは主将として断った。
「自分が走らなくても、青学は十分強いです。青学は優勝するチームですし、復路のメンバーが強いのは監督が分かってるじゃないですか。チームのために後輩を走らせてください」
神林の言葉を受け、原監督は「自分のエゴでチームを沈没させてはいけない」と部員たちに頭を下げ、泣く泣く神林を外す決断をした。
「神林には横浜の給水を頼みたい」
なぜ、そこまで監督は神林にこだわったのか。原監督はいう。
「コロナ禍のなか、目標を見失いそうになりかねない1年、肉体的にも、精神的にもチームを引っ張ってきたのは神林でした。これは、神林のチームなんです。だからこそ、私は彼に走って欲しかった」
もともと、神林は1月2日の3区に予定されていた。しかし、3日ならば、少しは状態も改善されているかもしれない。そんな祈りも込めて原監督は10区に起用しようとしたのだった。
それでも、原監督は最後に神林のための舞台を用意した。
「彼はこれで引退なんです。もう走れないんですよ。箱根駅伝での給水や付き添いなどの役割分担は選手が決めるんですが、『神林には横浜の給水を頼みたい』と、これだけは学生たちにお願いしました。なぜなら、テレビに映るし、30mほどですが、いちばん長く走れるからです」
神林は、9区の飯田貴之と並走し、給水係の役目を終えた。
4年目の箱根駅伝は、こうして終わったが、青学大は総合で4位にまで順位を押し上げていた。
「ナイーブだった1年生」から「区間賞」へ
神林勇太は、実力はありながら、1年の時から悩める青年だった。
神奈川の中学校を卒業すると、「厳しい環境を求めて」、熊本の九州学院へと進学。着々と実力をつけ、青学大でもルーキーで16人の登録メンバーに入った。ところが、年末の重要なポイント練習を外した。