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本山雅志の「やばい」ドリブル、夢を与えた平山相太、川口能活の“圧”と懸命さ…水沼貴史が語る選手権の記憶
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byAFLO SPORT
posted2020/12/30 11:04
雪の中、国立のピッチで躍動した東福岡高校の本山雅志
ゴール裏で驚いた立派な選手宣誓
少し視点を変えてみましょう。近年の選手権で印象に残っているのが、青森山田高校で主将を務めていた住永翔。現在は明治大4年生です。
彼は第96回大会で選手宣誓を行ったのですが、その内容が本当に素晴らしかった。当時、私も北陸高校のコーチとして初めて選手権に臨んでいたので開会式をゴール裏で見ていました。あんな大勢の前で堂々と話せる選手はそうそういません。シャペコエンセの飛行機事故の話なども盛り込み、サッカーができる環境に感謝するという全国から集まった高校生たちの思いを代弁する内容でした。すぐに黒田(剛)監督のもとに駆け寄って「彼はすごいですね」と話しかけたことを覚えています。
もちろん、プレーぶりも素晴らしかった。アンカーの位置でバシバシ守備ができるし、彼のプレーをみて「山田のアンカーはすごい」というイメージが刷り込まれました。
それ以降、選手権の選手宣誓では毎年のように素晴らしい言葉が生まれている。そういう意味でも歴史を変えた選手かもしれません。来季からJリーグ入り(J3長野パルセイロ)も決まったようで、これからどんな選手に成長するか楽しみにしています。
GK像を変えた“かっこいい”川口能活
最後に挙げたいのは「かっこいいGK」清水商業の川口能活です。
ただビジュアルだけでなく、シュートストップは当時から抜きんでていました。あれだけ前に出てくるGKは当時はあまりいなかったと思いますし、能活を見てGKを目指した子も多いのではないでしょうか?
能活はとにかく真面目でストイック。サイズが大きくなかったから、その分フットワークなど、技術を伸ばすことを高校時代から意識していたんだと思います。後にマリノスで一緒にプレーしましたが、前に出ることを想定してスパイクのつま先にツメみたいなものを入れて改造していた。自分の特徴を道具にも反映させるなど、そこまで突き詰める選手でしたね
能活とは懐かしい思い出もあります。ルーキー時代は「プロのキックはそんな簡単に止められないよ」という感じで私と木村和司さんが居残り練習の相手役を買って出ていました。和司さんは曲げて、私はストレート系。それでも「無理っす」とか言いながら必死に食らいついてきた。懸命な姿は鮮明に覚えています。
その後、アトランタ五輪で歴史を変えて、日本で初めてW杯に出場したGKになり、日本人GKとしては初めての海外移籍も実現させた。そして今は東京五輪代表のGKコーチですからね。これからも日本サッカーに貢献してほしいです。