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体操・村上茉愛、“恐怖の涙”を乗り越え五輪へ視界良好 「チュソビチナ」成功に見る24歳の確かな進化
posted2020/12/18 11:01
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Kiichi Matsumoto
0.1点を拾い続けた先に見つけたものは、0.4点増の新兵器だった。日本女子のエースが新たな境地に足を踏み入れた。
4月開催の予定が延期され12月10~13日に群馬・高崎アリーナで行なわれた全日本体操選手権の女子個人総合で、村上茉愛(日体クラブ)が貫録の演技を見せ、2年ぶり4度目の優勝を飾った。予選、決勝とも1位だった。
19年は腰痛によりNHK杯を直前で棄権し、世界選手権代表を逃すという苦しいシーズンを過ごした。20年はコロナ禍、東京五輪延期という、さらに混迷のシーズン。その状況で見事に復活を遂げた。
「久々の試合で、ここまでできた自分を褒めたい。予選1位で決勝の最後は最終演技者という感覚も久々。楽しかったし、みんなに見せたいという思いで頑張った」
大技「チュソビチナ」の成功が表しているもの
決勝では最初の種目である跳馬で、いきなり完璧な演技を披露した。今大会から使い始めたDスコア(演技価値点)5.8の大技「チュソビチナ」(前転跳び前方伸身宙返り1回半ひねり)。着地まで狙って止める美しさで全体をまとめ、Eスコア(演技実施点)は9.400の高評価を受けて、15.200という高得点をマークした。
「チュソビチナ」の成功には、試合で初めて使ったということもさることながら、それ以外にも村上の能力の高さを表す要素がある。村上が高校時代から20年9月の全日本シニア選手権まで試合で一貫して使っていたのは、Dスコア5.4の「ユルチェンコ2回ひねり」だった。踏切板の手前で側転から4分の1回転ひねり、跳馬に対して後ろ向きに手を付き、2回ひねる技。この技を完璧にモノにした村上は、次の段階としてもう半分ひねりを加えるDスコア5.8の「アマナール(ユルチェンコ2回半ひねり)」に取り組んだ。しかし、なかなかうまくいかなかったという。
そこで方向転換をして挑んだのが、「チュソビチナ」だった。練習自体は17年頃からやっていたというが、試合は今回が初。しかも9月の全日本シニア選手権からわずか3カ月で後方系から前方系の技へ変えたのはさすがだった。