バスケットボールPRESSBACK NUMBER
Bリーグ川崎・辻直人「“チームが勝てば”で満足してはダメ」批判と怪我を超え、ヒーローになる
posted2020/11/09 06:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
KAWASAKI BRAVE THUNDERS
完璧な姿なんて求められていない。
一度落ちて、そこから這い上がろうとする者だけが、みんなの認めるヒーローになれる。
決意の表情とはちょっと違う。悲壮感もない。笑顔をまじえて、スポットライトの下に戻ってこようとしている。
これは迷い続けてきたバスケットボール選手が、ヒーローになろうとしている話だ。
「怪我だと全てがゼロになってしまう気がして」
川崎ブレイブサンダースで、漫画「スラムダンク」の三井寿と同じ14番を背負う辻直人はこう語る。
「僕にとって、怪我はけっこう大きくて。例えば、代表の活動で自分のチームを1カ月以上離れるようなことがあっても、所属チームに戻れば流れに乗っていけるんです。
でも、怪我だと全てがゼロになってしまう気がして、マイナスな方向に走ってしまう」
きっかけは怪我だったのかもしれない。
一昨シーズン、Bリーグ3年目となる2018-19シーズンは終盤戦に左肩を負傷。プレーオフにあたるCSにはどうにか出場できたが、シーズン終了後に手術することになった。そこからリハビリを経て、昨シーズンの初戦には間に合ったものの本調子とは言い難かった。
思えばBリーグ初年度もそうだった。天皇杯の決勝も、Bリーグのファイナルも、万全とはほど遠い状態でコートに立っていた。
Bリーグ開幕からの4年間は怪我との戦いだった。
スポットライトの下にいたはずだった
「あぁ、輝いてるな……」
チームメイトのことを、辻はそんな風にながめていた。
Bリーグが開幕して、バスケ選手の注目度が上がっていった。
辻は、プロリーグ誕生とともに輝きを増すことを期待されていた選手の筆頭だった。
BリーグはNBLとbjリーグが統合される形で誕生した。辻はNBLの最後のシーズンのプレーオフで、自身2度目となる「ファイナルのMVP」に選ばれていた。だから、2016年のBリーグ創立時にはスポットライトの下にいた。
それなのに、チームメイトを羨望の眼差しで眺めるようになった。
例えば、キャプテンの篠山竜青。Bリーグが開幕してから、短期間で大きな変貌を遂げて日本バスケ界を象徴する選手となった。あるいは藤井祐眞。昨シーズン篠山が怪我をして長期欠場を余儀なくされた中で、彼は同じPGとして暴れ回り「ベストファイブ」などリーグの個人賞を3つも手にした。
脚光を浴びる彼らを見ながら、辻は弱気になることもあった。
「みんな、すごいな。オレに同じようなプレーは……」