バスケットボールPRESSBACK NUMBER
Bリーグ川崎・辻直人「“チームが勝てば”で満足してはダメ」批判と怪我を超え、ヒーローになる
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKAWASAKI BRAVE THUNDERS
posted2020/11/09 06:00
辻直人は明るく笑顔で長い挫折から這い上がろうとしている。暗い流れを吹き飛ばすその姿は、まさに令和のヒーローだ
自分と戦った上での小さな勝利を重ねて
壁を壊すきっかけは、コロナによる自粛期間だった。
2人の子どもを含めて過去に例を見ないくらいに家族4人で過ごせた。
ささみや胸肉など、低カロリーながらも、たんぱく質が豊富なものを中心とした食生活に切り替えた。
そして、毎日のように規則正しくトレーニングを続けていった。
昨日は、良いトレーニングができた。今日も、できたな。明日も……。
ロサンゼルス・レイカーズを倒すような大きな勝利ではない。普通の人でも頑張れば達成できるかもしれないようなもの。自分と戦った上での小さな、小さな、勝利だった。
小さな勝利でも、積み重ねればポジティブになれた。
自粛期間が明けて、体育館に行くと、違う景色が見えた。
「キレが感じられるわ!」
相手のプレーに対応するように動かなくてはいけない守備をするときでも、こう感じた。
「しっかり相手についていけてるやん」
攻撃では、独特の感覚が得られた。
「あ、しっかりコートを“蹴れて”いるぞ!」
辻の『蹴れている』という感覚は、周囲からは、跳ねているように見えるもの。躍動感が生まれた。
「今シーズンの辻、上がっていくと思いますよ」
2012年に辻がブレイブサンダースの一員になってから、一番近くで見てきた篠山はこう感じている。
「ここ数年のシーズンオフの辻は代表で忙しくしているか、怪我で苦しんでいるか、どちらかでした。でも、今年は怪我がすでに完治したこともあって、辻はずっと練習していたんですよ。だから、『納得いくまで練習して、自信をつけるための時間をやっと、もらえたんだな』と感じます。苦しさを知った分だけ、これから待っているのは『復活』ではなくて、『進化』だと僕は思うので。今シーズンの辻、上がっていくと思いますよ」
バスケットボール少年として気がすむまでシュートを打っていたころのように、リングに向き合える時間が辻には必要だった。前に進むために。
子どものように迷うけれど、子どものように脇目も振らずにリングを見続けられたりもする。その力が、ときに爆発的な力を発揮する。
そのピュアさこそが、辻らしさだ。
だから、だろう。今シーズンの辻は、こんな目標を掲げた。
BリーグのファイナルでMVPを取る、と。
「『ファイナルで勝って、Bリーグ優勝です』と言うのは簡単やけど、もっと自分に課したいものがあるんですよね」