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Bリーグ川崎・辻直人「“チームが勝てば”で満足してはダメ」批判と怪我を超え、ヒーローになる
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKAWASAKI BRAVE THUNDERS
posted2020/11/09 06:00
辻直人は明るく笑顔で長い挫折から這い上がろうとしている。暗い流れを吹き飛ばすその姿は、まさに令和のヒーローだ
時代と環境の変化もあいまって、選手の「ヤンチャ」な一面は表に出づらくなった。それは昨シーズン限りで49歳にして現役を引退したレジェンドの折茂武彦氏も近著のなかで憂えていたことだが、その影響は辻も受けた。
「もちろん配慮が必要なところはありますけど、『プロなら無難に、こう語るべき』という教科書のようなものも最近できつつあるじゃないですか。でも、僕は『アイツ、アホやな』と思われるようなことを言いたいし、インタビューでも“チャラけて”しまうというか。そうでないと、僕自身、面白くないんですよね。
でもここ数年は僕も、教科書通りのコメントをしていましたよね……」
辻は幻想に振り回されるように
怪我はきっかけにすぎない。注目が集まるステージに変わり、ノイズも増えた。
様々な要因がかさなって、辻はバスケットコートに立つときに幻想に振り回されるようになった。
「気持ちの面で、最初からアドバンテージが相手にあるような感じでした。しかも、そのアドバンテージは僕が勝手に作り上げていたものだったんです」
自分に期待して、それに使命感とともに応えることで自信をつけてきた辻が、期待の重圧に押しつぶされていた。
そんな状況を見て、周囲も手をこまねいていたわけではなかった。昨シーズンからヘッドコーチ(HC)を務める佐藤賢次は、就任したタイミングで辻の副キャプテンの任を解いた。
「辻は、打ち続けないといけない選手なんです」
「実は、辻にキャプテンをやらせたら面白いだろうなと思う部分はあるんです。ただ、怪我から復帰するところでしたし、本人も『オレの一番良かったシーズンは……』と過去を引きずってるようなところもあって。余計なこと考えなくていいから、『結果を出すことだけに集中してほしい』という思いが一番強かったですね」
2シーズン前までHCを務めていた北卓也はこう感じていた。
「若いときには誰しもガムシャラにやれる部分もあるのですが、年齢を重ねるとそれだけではいられなくなるんですよ。辻にはもっと良くなりたいという気持ちが強くあり、その一方で怪我もありました。そこで、迷いが生じていたのかなと思います」
自身も名シューターとしてならした選手だったからこそ、北は言う。
「辻は、打ち続けないといけない選手なんですよ」
周囲は配慮してくれた。信じてくれてもいた。
でも、目の前に作り出していた壁を乗り越えるためには、辻自身が変わらないといけなかった。