指名ゼロも経験、最後まで消えない不安

　ここ3年間、1位指名に関わる幸運に恵まれた白井スカウトにも指名ゼロという年もあった。

「その年は、ドラフトが終わった後は何も考えられないです。なんと表現したら、いいんでしょう。寂しさ、というか。自分ではどうにもできないことではあるんですけれど『1年間、何をやっていたんだろう』と思ってしまいます」

　ファイターズは事前に、伊藤投手の1位指名を公表。単独指名の可能性が高い、と報道されていた。

　会議が始まる直前、白井スカウトと会話する機会があった。最後の最後まで、一抹の不安を抱えていた。

「〇〇が、もしかしたら伊藤投手を指名してこないですかね」

　午後5時。各球団のフロントトップらが出席する会議場から、1位指名が次々とアナウンスされていく。スカウトらは心血を注いできた1年間の命運を託し、控え室のテレビ画面から見守っていた。

　12球団、1位指名選手が出揃った。すべて終わるまで、白井スカウトは微動だにせずに画面を見つめていた。伊藤投手の交渉権が確定した。仲間のスカウトから祝福されても、微笑を浮かべる程度にとどめていた。

「はしゃいだりしないことに決めています」

　これまでのスカウト人生、経験からポリシーがあると聞いたことがある。

「自分の担当した地区から指名されれば、本当はうれしいんです。追いかけてきた選手には、思い入れがありますから。ただ自分のエリアから指名がなかった時のこと、ショックを覚えているので、はしゃいだりしないことに決めています」

　細部まで信念を貫き、その瞬間まで凛として構えていた。1度はほころびかけた運命の糸を、執念で紡ぎ直した。球団史上初の記念すべき北海道出身のドラフト1位選手は、天命のような巡り合わせで生まれたのである。

　運命の日――。ドラフト会議当日は、よくそう表現される。

　指名された選手、指名から漏れた選手だけではない。12球団のスカウト一人ひとりにも、ドラマがある。

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