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札幌でも愛されるミシャのJ1通算200勝 「楽しませる」哲学と求心力は広島&浦和時代と同じ
text by
斉藤宏則Hironori Saitoh
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/10/27 17:03
60代となったミシャ。Jリーグ監督生活は10年以上を優に超えるが、代名詞の可変システムと共に積み上げた200勝は立派の一言だ
「少し負け出すとゴール前に……」
負けてもなお、殴り合いを挑もうとする。ミシャサッカーとは、要するにそうしたマインドを保つことだと筆者は勝手に捉えている。「一番の敵は、恐れる気持ちだ」とも63歳の名将は常に口にする。
「就任時には『攻撃的なサッカーを目指す』と言いながら、少し負け出すとゴール前に大型バスを並べるようなサッカーをする監督は世界中にたくさんいる。でも、私はそうした類の監督ではない」
ただし、実際にプレーをするのは選手なわけで、監督が「攻めろ! 攻めろ!」と叫ぶだけでスタイルを形成できるほど簡単ではないし、異国の地で長く求め続けられることもないはず。
ミシャの指導を受けた若手DF濱大耀が「自分のなかでのサッカー観が一変した」と言い、ベテランGK菅野孝憲に至っては「人間として、ミシャのような人になりたい」とまで口にする。
売りである攻撃的なスタイルだけでなく、実践するモダンな戦術や指導哲学、そして選手の心を掴む人柄。選手の足を前に進めさせるための多くの要素を持ち合わせているのがこの東欧の指揮官なのだろう。
ルヴァン杯直前、進藤亮佑との秘話
昨年、札幌はクラブ史上初のルヴァンカップ決勝進出を果たした。そして晴れ舞台となる決勝戦を間近に控えたトレーニング中のことだ。ゲーム形式のメニューのなかで数度、DF進藤亮佑がボールを持つたびにミシャが怒鳴り、ゲームを止めるような場面があった。実は進藤はこのとき足首に痛みを抱えており、この日も痛み止めを使用して練習していたほどだった。
「このまま自分が試合に出たら、チームメイトに迷惑をかけてしまうかもしれない。ならば自分から出場辞退をしたほうがいいのかもしれない……。そう思いながら練習をしていた」(進藤)
だが、やっとの思いで手に入れた決勝への切符。超満員の埼玉スタジアムでの試合に出たくないはずがない。そうした微妙な心理状態がプレーに表れていたのをミシャは見抜いていた。そしてその日のトレーニングが終わった後、ミシャは進藤にこう語りかけたという。
「試合に出たい気持ちが少しでもあるのならば、私はキミを決勝で使いたい。やってくれるか?」