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横山典弘「はっきり言って全然足らない」武史「アドバイスは聞く。でも…」 父子が明かす“3代騎手ファミリー”の親子関係
text by
藤井真俊(東京スポーツ)Masatoshi Fujii
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/05/20 17:04
横山典弘(中央)の長男・和生(左)、三男・武史。父子三人が騎手の遺伝子を語り合う
「俺の仕事をナメるな」と言われました
――そんなプロの世界に飛び込んだ和生騎手と武史騎手。騎手になる決心を典弘騎手に伝えた時は?
和生 「俺の仕事をナメるな」と言われました。
典弘 言ったね(笑)。
和生 でも実際にその通りだったと思います。それまでそういう素振りを見せていなかったし、乗馬苑にも通っていなかった。でも父にそう言われてから、普段の言葉遣いを改めたり、筋トレをしたりして、自分は変わったと思います。
武史 僕は決心を伝えたわけではないですけど、中学のときに「お前は何になりたいんだ? ジョッキーか? それとも一流のジョッキーか?」と言われました。
典弘 それは覚えてない。でもすごいこと言ってるな、俺(笑)。
武史 そうなんだ(笑)。でも自分は父が何を言いたいのかが理解できましたし、それからは一流のジョッキーを目指すうえで何をすべきか考えて行動してきました。
和生が引っかかった父のいつもと違う一言
――二人にとって典弘騎手の思い出のレースはありますか?
和生 イングランディーレの天皇賞・春ですね。家を出る時に「くるっと回ってくるわ」って言い残して出発したんです。怪我をする仕事だし、送れる時は家族みんなで「気をつけてね」って送り出すんですが、いつもは仕事の話なんてしないし、頑張ってくるとも言わないんですよ。それがあの時は競馬のことを言い残して行ったんで、何だか引っかかったんですよね。それで気になってレースを見たら、ああいう結果(10番人気で逃げ切り勝ち)でしょう?
典弘 あれな。まぁでも本音だったんだよ。前の週にイングランディーレが熱発したと聞いていて、嫁さんには「まぁ調子も良くないし、メンバーも強いから、ちょいとくるっと回ってくるわ」って言ったわけ。それを和生は聞いていたんだろう。イングランディーレは人気がなくてノーマークの状況で、そこで俺がとんでもない乗り方をして、有力馬も力を発揮できなくてそういう展開を演出してくれた。だから実際はマジックでも何でもなくって、色んな要素が噛み合った結果なんだよね。わりとつい最近、和生たちにもこのレースの“種明かし”はしたんだけどさ。
武史 僕は'09年の秋のカンパニーが印象に残っています。天皇賞・秋では当時小学生だった自分でも強いと知っていたウオッカを破り、マイルCSでは4コーナーでかなり後ろにいて、「ダメなんじゃないか……」とハラハラさせながら最後は馬群の間を突き抜けてきて。格好良かったですね。
――格好良さでいうと、以前から典弘騎手は「ただ勝つのではなく、格好良く勝ちたい」と話されていました。
和生 それは僕らにもよく言います。ちょっと自分はまだ余裕がなくてバタバタしちゃうところもあるんですけど、格好良く勝てた時には良かったなって。いかにも余裕があるように勝ちたいんですけど、なかなか難しいですね。
武史 僕は2年目の途中からヨーロピアンスタイルで乗っていて、どうしてもヒザ下がブレることが多い。そこがお父さんとしてはお気に召していないと思うんですけど(笑)、その中でも格好良く乗るようには意識してます。
典弘 それは自分の考えでいいんだよ。俺の中ではフランキー(デットーリ騎手)が素晴らしいし、格好いいし、乗っている姿勢としては最高だと思うだけで。武史を批判したり、ヨーロピアンがダメだとかはないよ。それを勘違いして批判されたと思ってるのかもしれないけど、そんなことはない。自分の好きな乗り方をすればいいんだ。