祖父・富雄さんは怖かった

――和生騎手と武史騎手は祖父である富雄さんの記憶はありますか？

和生　はい。祖父も怖かったです（笑）。週末に会いにいくと、テレビの競馬中継を見ていて、父が勝っても怒ったりするんです。父の騎乗に入り込んでいる感じでした。

武史　僕はなんとなくですけど、やっぱり怖いイメージかな。親戚で集まってワーワー騒いでると、「うるせえっ！」て怒鳴られるんです。でも子供だから5分もするとまた騒ぎだして、そしたらまた「うるせえっ！」って（笑）。

典弘　時代は繰り返すんだな。俺の時も祖父のキヨシってのが、たまに北海道から来るんです。車椅子でおばあちゃんと一緒に来るんだけど、口癖は「うるせえ」だったよ（笑）。

――典弘騎手は父・富雄さんと競馬の話はされたんですか。

典弘　しないですよ。自分から近寄らなかったから。俺も若かったし、他人から言われても納得しないよね。レースっていうのは、そのジョッキーだけのものだから。和生や武史もそう。そのレースで、その馬に乗るのは和生や武史、そして俺しかいない。

俺から見てオヤジは一流で、本物のプロだった

――その瞬間、その場面を感じられるのは、乗っている騎手だけということですか。

典弘　そう。俺がキョウエイタップでオークストライアル（'90年・4歳牝馬特別、今のフローラS）を勝って意気揚々としていたら、オヤジがボソッと言ったんだ。「本番はあんな後ろから行ったら届かない」って。その時に「嫌なこと言うな……」って思いながら、迎えたオークス。オヤジの言葉が耳に残っていて、結局早めに動いちゃって……。結果は6着。「やっぱり俺の乗り方が合っていたのに、オヤジが余計なこと言いやがったせいで」っていう気持ちがすごくあった。でも自分が親になって思った。俺も和生や武史に同じことをやってるなって（笑）。以前、レース中に和生に「おい、早く行けよ！」って言ったことがあるんだ。自分の経験上、もっと前に行かなきゃ勝負にならないと思って。でも結果的には和生を煽る形になり、前が詰まって落馬しそうになってしまって……。その時、思ったんだ。俺もオヤジに言われて嫌な思いをしたのに、自分も子供にこういうことやるんだなって。

――富雄さんも良かれと思って典弘騎手にアドバイスしたんでしょうけどね。

典弘　うん。でも嫁から聞いたんだけど、結婚した当初は、家で俺のレースを見て「なんだ。あのしょうもない乗り方。（後ろから）届かないのかよ」って言ってたオヤジが、10年くらいしてから「いいんだ。あのポジションは」「いいところに入った。いい乗り方だった」って言ってたらしいんだ。俺には直接は言わないんだけどさ。

――うれしかったですか？

典弘　もちろん。俺から見てオヤジは一流だったし、本物のプロだったから。そういう人に認められたっていうのはね。

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