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「いかに頭を使って天賦の才に勝つか」ダルビッシュ有が語った近いようで遠い“真のトップ”との差
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2020/10/07 20:00
ダルビッシュ有が所属するシカゴ・カブスは10月2日、ワイルドカード・シリーズ(WCS)敗退が決まった
「それが達成できなかったのが僕の中ではすごい悔しい。(レスターは)やっぱり僕ら投手陣にとっては本当に大きな存在なので、(再契約して)来年もチームに残ってくれることを皆で願っています」
レスターは通算3度もワールドシリーズ優勝を成し遂げた「生ける伝説」だ。レッドソックスでの2度の優勝を経てシカゴに「優勝請負人」としてやって来た彼は2016年、カブスが108年ぶりのワールドシリーズ優勝を成し遂げた時の立役者でもある。その彼がプレーオフ敗退の数日前、ダルビッシュについてこう話している。
「彼は芸術家みたいなんだ。投げる度に絵画でも創造しているようで、今日はスライダーが機能しないからスプリットか、2週間前に発明したけどまだ名前が付いていないあの球種で行こう、みたいにね」
レスターがダルビッシュについて語るのは初めてではない。
「去年、今が人生で一番いいと思ったが、今年はもっといい」
2018年、6年1億2600万ドルの大型契約でカブスに入団しながら、右腕を傷めてわずか8試合の登板に終わった日本からのチームメイトを、彼は当時、「自分が思うように体を動かせないのが、一番つらいことなんだ」と言っている。至極、当然のコメントだが、メジャーリーグ・デビュー後に悪性リンパ腫を患って選手生命の危機にさらされたレスターが口にすると、とても重たい言葉に感じられた。
「僕の場合、鍵になったのは『希望』を捨てないことだった。ネガティブなことを考え出せば切りがないし、悪いカルマに引きずり込まれてしまう。それは彼(ダルビッシュ)も分っているだろうし、だからこそ、彼は今でも球場に来て治療したり、体を動かしたりしているんだと思う」
2年前の今頃、ダルビッシュは球を投げることすらできず、チームの敗戦をただ見届けるしかなかった。その彼がマウンドに上がり、日本人初の最多勝投手となり、最優秀投手に贈られるサイヤング賞の有力候補にもなった。「去年、今が人生で一番いいと思ったが、今年はもっといい」と尋常ならざる手応えを掴んだのは、奇跡のような物語だと言っていいだろう。
ダルビッシュが語った“トップとの差”
34歳の彼は今、何を思うのか――。
「去年の後半くらいから、トップレベルが見えているというのは周りにずっと言っていて、その位置に自分が来れたとは思っているけど、同時に(過去のサイヤング賞投手の)デグロム(メッツ)やカーショウ(ドジャース)、バーランダー(アストロズ)だったり、あの辺との差が自分の中ではまだ遠いかなとは思います」