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「いかに頭を使って天賦の才に勝つか」ダルビッシュ有が語った近いようで遠い“真のトップ”との差
posted2020/10/07 20:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
カブスの2020年シーズンが終わりを告げたのは、10月2日金曜日の午後4時31分のことだった。
シカゴのリグリーフィールドの一塁側ダッグアウトの前で、カブスに連勝して2戦先勝方式のワイルドカード・シリーズ(WCS)を勝ち上がったマーリンズの選手たちが控えめに喜んでいるのを眺めながら、カブスのリモート会見に備えてイヤホンをする。
間もなく聞こえてきたのは、就任1年目でナ・リーグ中地区優勝を果たしたデイビッド・ロス監督のプレーオフ敗退の弁だった。
「バットが振れている状態には、とうとうならなかった。オフェンス面では多くの選手たちが、今まで見てきた彼らじゃないような感じのまま、終わってしまった」
「ダルビッシュたちが背負ってくれているのに……」
WCSにおけるカブスの得点は第1戦でイアン・ハップが放ったソロ本塁打のみ。たった2試合で18イニングという少ないサンプルのなか、打率.145、出塁率.254、長打率.226という数字は、シーズン最後の14日間でチーム打率.195、出塁率.302、長打率.323と急激に冷え込んだ打線を反映した数字だった。しかし、シーズン最後のホワイトソックス3連戦で25点を奪って、絶好のタイミングでの打線復活を思わせただけに、少し驚きでもあった。
「惨めだよ。ひどい気分だ」
そう言ったのは実質キャプテンのアンソニー・リゾ一塁手だった。
「ダルビッシュや他の投手陣が俺たちを背負ってくれているのに打てず、(スランプを)乗り越えられないと、心が折れる」
ダルビッシュ有投手がマウンドに上がったのは、それから3時間以上前のことだった。場内にGReeeeNの『道』が流れる中、マウンドに駆け上がり、初回、もっとも相性の悪い先頭打者のコリー・ディカーソン(13打数5安打1本塁打1打点)からチェンジアップで空振り三振を奪う好スタートを切った。その後も丁寧なピッチング、普段以上に落ち着いた感じのするマウンドさばきは続き、淡々とアウトが積み上げられていった。
ところが、カブス打線も新人の先発シクスト・サンチェスを含む5人のマーリンズ投手陣を攻略できない。それは一昨日に6回まで無失点の好投を見せた先発カイル・ヘンドリクスを見殺しにして、1対5で敗れた初戦の再現のようだった。
それでもジェイソン・ヘイワード右翼手が難しい打球をランニングキャッチしたり、カイル・シュワバー左翼手が二塁を陥れようとした打者走者を的確な送球で刺すと、カブスのベンチが活気づく。