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【2カ月連続のMVP】DeNAの韋駄天・32歳梶谷隆幸に聞いた「球団新記録“42”までの道のり」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2020/10/07 13:05
先月19日の巨人戦では今季2度目となる1試合2本塁打を記録。少ない試合数ながらキャリアハイも窺う成績でチームを牽引する。
一昨年は右手の骨折と右肩の手術、昨年はバッティングの不調により、ともに41試合の出場にとどまり、レギュラーとなってから最悪のシーズンを2年連続して過ごしている。だが昨年、約3カ月間ファームにいた時期、「このままでは野球人生が終わってしまう」と一念発起し“心の在り方”を変えてからというもの、野球への取り組みは以前以上にシリアスなものになった。他人を気にすることなく、自分に黙々と向き合うこと。簡単そうに見えて非常に難儀な作業ではあるが、コツコツとつづけていくとついに変化の兆しが現れる。8月下旬に一軍へ昇格すると残りのシーズンで打率.284、OPS.967、5本塁打と存在感を示すことに成功した。
梶谷から漂う“ピリついた緊張感”の正体
今シーズン、梶谷は自分の立場を十分に理解し、勝負の1年に挑んだ。
「はっきり言えば厳しい状態からのスタートだとは自覚していました。レフト佐野(恵太)、センター神里(和毅)、ライトは(タイラー)オースティンでほぼ固まっているのは理解していましたし、その状況を覆すしかないって。だから練習試合とオープン戦が大事。まずはそこに全力を尽くしました」
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マイナスからのスタート。梶谷は若手のようにギラついた表情と姿勢でキャンプに取り組むと練習試合とオープン戦で結果を出し、開幕前にはラミレス監督から「よほどのことがないかぎり1番センターは梶谷でいくよ」と揺るぎない信頼を得るに至った。
振り返ればキャンプ期間からシーズンが開幕したあたりまで梶谷は人を寄せ付けないオーラを放っていた。コロナ禍により記者は物理的に近寄れないということもあったが、それでも遠方から見る梶谷からはピリついた緊張感のようなものが漂っていた。そのことを問うと、正直に梶谷は言った。
「そこは意識してやっていましたね。雰囲気からして人と群れないような空気感を出したいなって。ひとりで集中して練習したいと思ったし、とくにキャンプでは意図的に自分だけの空間を作ろうとしていました」
普段は誰に対しても気さくでユーモアのある梶谷のグラウンド内でのこの変化に、チームメイトもきっと気づいたことだろう。
頭で整理したことが「体で表現できるようになった」
1番センターのレギュラーとして梶谷はシーズンを駆け抜ける。ここまで88試合に出場し打率.318、出塁率.390、13盗塁、16本塁打、OPS.922(データは10月5日現在)と、スケールの大きいリードオフマンとしてチームを牽引している。
今季の梶谷の談話を聞いて気になったのは「頭を整理して打席に入ることができました」というコメントだ。この言葉の真意について梶谷は次のように教えてくれた。