ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
【2カ月連続のMVP】DeNAの韋駄天・32歳梶谷隆幸に聞いた「球団新記録“42”までの道のり」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2020/10/07 13:05
先月19日の巨人戦では今季2度目となる1試合2本塁打を記録。少ない試合数ながらキャリアハイも窺う成績でチームを牽引する。
「バットを立てると勢いはつくんですけど、打ち出すときにヘッドが落ちてしまい、前に飛ばないことが結構あったんです。そこで今年はバットを立てず、あるがままに振り下ろすといった感じですね」
ヒッチをなくせばスムーズにバットが出て、反応は良くなる。今季、梶谷の三振の割合が減り、フルカウントでもじっくりと粘れるのは、早めに準備できるところにひとつ要因があるようだ。
また本人が述べるように肝となっている逆方向への打球だが、本塁打しかり今季はボールの伸びが顕著だ。体が開かずバットが強く出ているのはもちろんだが、右手主導ではなく左手の押し込みが以前よりも強いように感じられる。
「ええ、左手はかなり意識していますね。右投げなので、これまでは右手でリードしてしまって、左手が使えずヘッドが落ちてきてしまっていたんですけど、今は左手で捕らえる、左手でかぶせるぐらいの気持ちで振っています」
ここまで述べたことは片鱗に過ぎないが、梶谷は長年の経験から“これだ”という打撃術を見つけ、それを信じ昨年からひとり作り上げてきた。そして心と頭と肉体はついにリンクし、見過ぎることなく、狙っていたボールがくれば躊躇なくバットを振り抜きヒットを生むようになった。
昔は「どうして打てていたのか」が分からなかった
32歳になった梶谷の探求心は止まることを知らず貪欲だ。練習の様子を見ていると、ラミレス監督や坪井智哉バッティングコーチ、同学年の宮﨑敏郎と打撃について話し込んでいる様子がよく見られ、また佐野恵太や柴田竜拓、倉本寿彦など、後輩であってもいいバッティングをしている選手に対して打撃時の体の向きや待ち球など細かいことをリサーチしている。
かつての梶谷は、神がかったように打ちまくり短期間ではあるものの驚くような数字を残すことが幾度となくあったが、そのときの感覚を訊くと「どうして打てていたのかわからない」と答えていた。つまり再現性がないということだ。だが今は自ら考え抜いたプロセスを踏み、どう打てばいいのか“心技体”を充実させつつある。
プロ14年目、円熟のとき。失礼ながら、時間がかかりましたね、と梶谷に言うと、目を細め笑った。
「そうは簡単にいかないですよ。ただ以前よりは確実な“なにか”がありますよね」