「このまま終わったらすごく格好悪い男で終わるなって」

　10月3日の中日戦、そんな梶谷をアクシデントが襲った。8回裏の第4打席、初球を見逃すと、2球目を空振りしたころで審判にタイムをかけた。梶谷はそのまま治療のためベンチへ下がると神里毅和と交代した。横浜スタジアムに戦慄が走り、不安が漂う。

　ラミレス監督よれば背中に強い硬さが出たということだったが、大きな怪我ではなく様子を見ながら一軍に帯同されることになった。不幸中の幸いというべきか。

　このままでは終われない。今季の目標は規定打席数を達成した上で、人生初の打率3割を打つこと。すでに規定打席はクリアしており、このままゲームに出ずとも3割打者にはなれる。だが、こんな終わり方は当然、望んではいないはずだ。わずかな優勝の可能性をさぐるチームのためにも、そして自分のためにも。

　負傷について訊くことはできていないのだが、今どんな気持ちでいるのか考えると、ふと梶谷の語っていた言葉を思い出した。

「去年一昨年とダメだったとき、クビになるかもしれないって考えたし、恐怖心もありました。ただ、このまま終わったらすごく格好悪い男で終わるなって思ったんですよ。結婚もして子どももできて、何とかもう1回って」

　恥ずかしさも衒いもなく、こういう言葉が素直に口から出るのが梶谷らしい。「疲れた……」と言って帰れる場所がある。充足感ある表情で帰路につく主を待つ家族がいる。

「そういえば妻には、去年一昨年がダメだったんで一軍でやっているところをほとんど見せてないんですよ。だから家族にはそういった姿をもっと見せたいんですよね」

　月間MVPという大きな勲章を得て、奇しくも訪れてしまったピンチのとき。入団したときからアップダウンの激しい平坦ではない野球道。決して無理はしてほしくないが、残りシーズンわずか、再び1番センターで躍動する青い韋駄天の姿を待ちたい。