F1ピットストップBACK NUMBER
ハミルトンが超えて行くシューマッハの偉業 トスカーナGPで感じた時代の「継承」
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2020/09/25 11:30
決勝前のデモ走行で最強V10サウンドを轟かせたミハエルの息子ミック。'19年からF2参戦中だが来季以降のF1参戦も取り沙汰されている
シューマッハが挙げた91勝のうち89勝は…
第1に「恐ろしいほどのスピードを何周も維持できること」。
ブラウンはシューマッハのこの資質をいち早く見抜きF1に新しい戦い方を持ち込んだ。それはスタートからフィニッシュまで、軽い燃料とタイヤのグリップ力を生かして全力で走るというレースのスプリント化だ。シューマッハが挙げた91勝のうち、じつに89勝は94年以降の給油時代のものだ。
その絶頂ともいえるレースが04年フランスGPだった。2番グリッドからスタートしたシューマッハは、ポール・スタートでトップを走るフェルナンド・アロンソ(ルノー)に対してF1史上初めてドライコンディションで4回ピットストップという末に逆転して優勝を飾った。
どんな状況にも適応できる能力
ブラウンは第2点として「どんな状況にも適応できる能力を持っている」点も挙げている。その象徴ともいえるレースが94年のスペインGPだ。ベネトンのマシンを駆ってポールポジションから好スタートを切ったシューマッハだったが1回目のピットストップ後に試練が襲う。ギアボックスが5速ギアに入ったまま、動かなくなってしまうトラブルに見舞われたのだ。ペースダウンを余儀なくされたシューマッハはトップの座こそ明け渡さざるを得なかったが、なんとその後40周以上もの間、5速ギアだけでトップとコンマ数秒しか違わないペースで走り続けて表彰台圏内を維持。最終的に2位でチェッカーフラッグを受けたのだ。
「私はこれまで91勝を挙げてきたが、あのレースはそれらどの勝利にもひけをとらないベストレースのひとつだ」と後日、本人が語っていたように、シューマッハのこの優れた適応能力が91勝の礎になっていたのは間違いないだろう。