私は困難を乗り越えるプロなのです！

「私はアルゼンチン代表史上、最悪の失敗の責任者と呼ばれたこともあります。私は困難を乗り越えるプロなのです！　プロジェクトのまだ3分の1が終わったにすぎない段階で、なぜそのよう質問をするのか！」

　フランスリーグ・リール監督時代、記者から敗戦の責任を問われたとき、エル・ロコは唾を飛ばさんばかりの勢いで怒鳴り散らした。ビエルサがなぜ激高したのか。じつは、彼にはある敗戦の為に、「詐欺師」などと口さがないメディアに激しく批判された過去があったのだ――。

　史上最悪の失敗、それは2002年日韓ワールドカップで起きた。当時のアルゼンチン代表は史上最強メンバーと言っても過言ではない選手が揃っていた。

　FWバティストゥータ、クレスポ、MFオルテガ、アイマール、ベロン、シメオネ、ソリン、DFポチェッティーノ、サネッティ、アジャラなどといった、いずれも欧州で活躍するスター揃い。チームのまとめ役はキャプテンのベロンと、シメオネ、サネッティといったキャプテンシーに溢れた選手たち。まさに盤石のチーム編成だった。

「一定の疲労感がないと頭のなかが無政府状態になる」

　そして監督はマルセロ・ビエルサ。抜群の戦績と、鋭い眼光と威厳ある佇まいはカリスマ監督そのものだった。

　当時、荒川がリエゾンとしてアルゼンチン代表に帯同されていたことは連載の前回で紹介した。毎朝のジョギングでビエルサと荒川は様々な会話を交わした。

ビエルサとジョギングをする荒川氏　(C)Javier Garcia Martino

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「ウステ――」

　ビエルサは10歳以上も年下の荒川に対してもスペイン語の敬語表現である「ウステ（あなた）」を使い、語りかけた。ビエルサは常に相手に敬意を払う。
　
　荒川はある日、「なぜ、あなたは毎日走るのですか？」と質問をした。
　
　ビエルサは地面を見つめながらこう答えた。

「一定の疲労感がないと頭のなかが無政府状態になり、心も体も無秩序になってしまう。自分を保つためにジョギングをしているんです」
　
　Jヴィレッジでキャンプを張っていたアルゼンチン代表は、メンバー以外にもU－20の選手14人をサポートメンバーとして帯同し日本に連れて来ていた。この14人という帯同メンバーはかなり多い。

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