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「野球を面白いと思えなかった」DeNA・山下幸輝の意識を変えた“2人のアスリート”とは 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byKYODO

posted2020/09/15 11:40

「野球を面白いと思えなかった」DeNA・山下幸輝の意識を変えた“2人のアスリート”とは<Number Web> photograph by KYODO

ラミレス監督と抱き合うDeNA・山下幸輝(2018年撮影)

「野球を楽しめば結果は出るんじゃないか」

 ある日、山下はファーム打撃コーチの大村巌に質問をした。

「人がいないところを狙って打つことは可能ですか?」

 大村コーチは答えた。

「可能だよ」

 そこから山下は大村コーチにアドバイスを受けながらツーストライクに追い込まれた場面やバッティングカウントの際、まわりを見て守備がいないところを狙って打つようになった。打撃フォームは以前と比べバットのヘッドを寝かし、膝の曲がりを浅くして、前足を振り上げタメを作った。ゆったりとしたフォームながらも俊敏に反応できるように。

「昨年までは初球の変化球を見逃すことが多くて、勝手に追い込まれてしまう状況だったのですが、今は初球から思いっ切りいくことを心掛け、そして素早くタイミングがとれるよう、現在のフォームに行き着いたという感じですね」

 着実に気持ちも体も技術も変わっていった。春季キャンプでは3学年下の同僚であり、オフに単身メキシコで武者修行し、プレーする根本的な楽しさを享受した関根大気と話し、大いに刺激を受けた。なぜ自分たちは野球をやっているか。どんな気持ちで野球を始めたのか。プロとなり結果をシビアに求められるがゆえに、いつしか苦行となってしまった野球だったが、この気持ちのまま終わるわけにはいかない。山下は吹っ切れ、野球を楽しむことを心に誓った。一度は死んだ身。そこに恐れるものはない。

「結果が出ている人ってどういう人なのか逆算して考えたんですよ。野球を楽しめば結果は出るんじゃないかって。ちょっとずつですけど結果は出ているので、間違ってなかったなって思っています」

後悔なくプレーすることを貪欲に追求する

 楽しむ以外に今はなにを考えて野球をしていますか、と尋ねると、山下はしばらく考えて口を開いた。

「正直、自分の実力や技術では、数字として夢を与えることは難しいと思うんです……」

 そしてゆっくりと噛み締めるように言うのだ。

「だから、人間ここまで変われるんだということを、いろんな人に見てもらいたいなと思っているんです」

 もう、エラーを恐れ不安な思いを胸に抱え守備に付くことも、追い詰められた精神状態で殊勲打を放ち安堵の涙にくれることもない。ただあるのは、今を目いっぱい、後悔なく生きることだけだ。

「ただ一軍に合流したばかりのときは自分らしさを発揮できていたんですけど、結果が出るにつれ、もっと結果が欲しくなってしまって……」

 たしかに昇格当初にくらべればバットは湿りがちだが、貪欲であることに間違いはない。プロである以上、勝負はつづく。

「まあ、一度は諦めた身ですから、そんな勝負とは思わず、普段通り楽しみながら過ごしていきたいなって」

 艱難辛苦の末の悟りというべきか、柔和な表情を見せる山下は確実に変わった。いや、変わることができた。そして望むべき追い風が吹いたのだ。

「まさかこうやって自分が変われるとは思ってもいませんでしたね」

 明るいオーラを放つ、ここ一番の代打の切り札は、今日も吹っ切れた笑みを浮かべ、声を上げ、バットを強振する。

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