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「野球を面白いと思えなかった」DeNA・山下幸輝の意識を変えた“2人のアスリート”とは

posted2020/09/15 11:40

 
「野球を面白いと思えなかった」DeNA・山下幸輝の意識を変えた“2人のアスリート”とは<Number Web> photograph by KYODO

ラミレス監督と抱き合うDeNA・山下幸輝(2018年撮影)

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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KYODO

 まさか自分が変わることのできる日が来るとは思わなかった。心が折れ、下ばかり見ていた、かつての自分はもういない――。

 横浜DeNAベイスターズの山下幸輝は、今日も笑みを浮かべ、プレーをする喜びを体いっぱいに享受している。

 コロナ禍により静寂が漂うスタジアムに、バッターボックスに立つ山下の声が響き渡る。

 バットを振れば「うぉりゃっ!」と声を張り上げ、ボールを見逃しても「うおっ!」と腹の底からうなり声が出る。あふれる鼓動。その声はまるで言霊のごとくバットに伝わり、捉えたボールは強烈な打球となり外野へと飛んでいく。

「辞めたいと思うぐらい、野球を面白いと思えなかったんです」

 6年目の今シーズン、山下はファームで打撃好調をアピールすると、7月中旬に一軍に合流した。以来、主に代打として帯同され、チャンスの場面で打席に立っている。思い切りのいいバッティング。昨季まで切り札だった佐野恵太がレギュラーになったことで手薄になったDeNAの代打陣であるが、ラミレス監督は「ここぞという場面で点が欲しいときは山下を使う」と信頼を寄せている。

 とにかく印象的なのは、明るく快活なその表情だ。常に口角が上がり、覇気に満ちている。どこか内向的に見えていた、昨年までの山下にはなかった風情である。

「以前は、人目を気にするタイプだったんですよね……」

 山下は苦笑しつつ、自分自身のことを振り返る。

「今までは笑ってプレーなんかしていたら、まわりから叩かれるだろうなって思っていましたからね」

 とにかく自分に自信を持てなかった。ミスを恐れることで、プレー中に体が硬直することもあった。押し寄せるような緊張感で自分らしさなど出せるはずもなかった。

「前は、スタメンと言われたときは緊張しすぎてヤバかったですし、一軍に行けと言われて嫌だなと思ったこともあったんですよ」

 期待をされていても自分に確信を持てなければ、時にそれは大きなストレスとなる。結果が出ず悩みの渦中にいる選手が「チャンスに打席がまわってきてほしくない」「スタメンから外してもらいたかった」と心情を吐露するのは珍しいことではない。山下は続ける。

「正直に言えば辞めたいと思うぐらい、野球を面白いと思えなかったんです。振り返れば自分で自分を追い込んでしまっていました。ただ今は、人目を気にすることなくやろうと思うようにして、そうしたら不思議と吹っ切れたんです。今は楽しくやっていますよ」

 そう言って見せる納得した笑顔の裏には、塗炭の苦しみを乗り越えてきた、たくましさが見えるようだった。

一度も1軍に呼ばれなかった昨シーズン

 5年目の昨年は、一度も一軍に呼ばれることがなかった。入団して以来、初めてのことであり、山下は自分のキャリアについて考えざるを得ない状況に追い込まれた。

「昨年はシーズンの序盤に、これは今年かぎりかなって思ったんですよ……」

 一度は終わりを覚悟した。

「だから次の仕事のことを考えたりもしましたし、就職活動をしないといけないなって」

 だが悲壮感ただよう山下の思いとは異なり、オフに球団から契約更新をされた。自分より若い選手がチームを去っていくのにも関わらず、もう終わりだと覚悟した自分の首が皮一枚でつながっていた。

 意識を変える必要があった。でなければ、ぐずぐずと朽ちていくだけだ。

【次ページ】 「自分は恵まれている」2人の“ある選手”との出会い

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