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中村航輔&中村太地が語った10代半ばの藤井聡太&久保建英観、サッカーと将棋の奥深さとは
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKenji Iimura
posted2020/09/14 07:00
サッカーと将棋。一見すると全く共通点のなさそうな競技だが、真剣勝負という場でのやり取りは相通じるのだ。
もしかしたら、わざと勝負所を作っている?
航輔:ええっ、公式戦でそんなことがあるんですか。
太地:羽生先生は5回の盤勝負でトータル勝ち越していればいい、と考えているのだと思います。羽生先生は最近、24、25歳くらい年下の人とタイトル戦に臨むことが多くなっています。これだけ年齢が離れると将棋に対する価値観が違っているので、それを1局目、2局目で判断している印象です。同じ棋士から見ていても「今回こそ羽生さん、タイトル獲られちゃうんじゃないか」と思っていても、2勝2敗の最終局になるとほぼ勝ちますね。何度も大勝負を経験されている方だからこそです。
航輔:羽生さんって、もしかしたら“わざと”勝負所を作っているんですかね。
太地:それもあると思います。苦しい時の考え方って、自分で無理やりあがいても良くないので、相手に難しい局面を提示してしまうことがあります。例えば食事のメニューで「お好きなものを選んでください」という感じで(笑)。いろんな手がある中で……。
航輔:ミス待ちってことですか?
太地:はい。もし相手がいい手を選べば「お上手でしたね、私の負けでした」となるんですが、羽生先生はその提示の仕方が抜群に巧くて……食事で言うと、どちらも美味しそうに見えるんですよ(笑)。だけどつまんでみると、どちらも怖いなという。
航輔:それって秒読みの人が間違えた対局ですかね(※第61期王座戦第2局。記録係が時間を間違えて羽生三冠、中村六段が同時に「えっ?」と声を挙げたシーンがあった)。
太地:おお、詳しいですね。その対局は僕が優勢に進めていたのですが、最後は時間に追われてしまいました。時間に追われて攻めるべき局面で守りに入るような、一貫性のない決断をして、最終的に逆転されたんですよね。そういった駆け引きがとてもうまいんです。
素早く反応するためにはフラット、無心の状態で。
航輔:恐ろしい勝負強さです。きっと、向かい合っている相手にそれだけの雰囲気を感じさせている時点で特別な存在なんでしょうね。実は遠隔操作で羽生さんが隣の部屋で指していた、くらいの方がいいかもしれないですね。ルール上ダメですけど。
太地:(笑)。羽生先生は自分から見ても特別な存在ですね。一般社会でも「棋士と言えば羽生さん」というイメージが強いと思います。語弊があるかもしれませんが、技術的に言えば羽生三冠と他のトップ棋士の実力って本当に紙一重だと思うんですよ。だけど実績になると差がついていく。棋士って、タイトルを5期くらい獲ればトップ中のトップなんです。その中で羽生先生はそろそろ通算タイトル数が……100期に行くんです。
航輔:すごすぎる! 僕が羽生さんに魅かれているのは、羽生さんがよく書かれる「玲瓏」という言葉にもあるんです。自分も試合に出場する時“どれだけ澄み切った状態で臨めるかどうかが大事”と考えています。将棋でも直観で指す手があったりしますよね。サッカーも考えすぎると反応が遅れることがある。だからこそフラット、無心の状態でプレーしたいと思っているんです。