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「歴史に乗っかりたい!」樋口新葉が抱く、トリプルアクセルにかける想い。 

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byAsami Enomoto

posted2020/09/05 11:40

「歴史に乗っかりたい!」樋口新葉が抱く、トリプルアクセルにかける想い。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

昨年12月の全日本選手権ではSP4位からFSでほぼノーミスの演技を見せ138.51点。総合206.61点で2位となり、3年ぶりの表彰台に登った。

「何の練習をしたらいいのか分からない時期もありました」

 その1カ月後、カナダ・モントリオールでの世界選手権が近づいてきた。東京での最後の練習でもトリプルアクセルを念入りにチェックし、現地へ。1回だけ公式練習に参加したあと、中止が伝えられた。

「せっかくの世界選手権でトリプルアクセルをやりたかったです。中止になってからしばらくは、何の練習をしたらいいのか分からない時期もありました。

 振付も、本当はシェイリーン・ボーンとジェフリー・バトルにお願いしていて、アメリカとカナダにいく予定でしたが渡航できなくなってしまい……。だったら日本でやれることをやっておこう、トリプルアクセルを完成させておこうと思い直しました」

 4月8日からは、緊急事態宣言を受けてホームリンクが閉鎖に。その期間は、跳躍力をアップさせるための筋力トレーニングに集中した。

「自粛期間は、陸上トレーニングの強度を上げて、頻度もほぼ毎日にしました。陸上でのジャンプや走り込みを多めにしていたトレーニングが生きて、6月1日に練習を再開してからは、昨季まで出来ていたことはすぐに取り戻せました」

トリプルアクセルを安定させていくことに集中。

 トリプルアクセルの感覚を安定させるためとして、4回転サルコウの練習も並行して始めた。

「もし4回転を跳んじゃえば、トリプルアクセルは簡単に感じるかもしれませんよね。今のところ、トリプルアクセルは滞空時間が長いとは感じなくなってきました。すごく良い感覚がつかめてきています」

 この夏、樋口は黙々とトリプルアクセルを跳び続け、何度転んでも、気持ちよさそうな笑顔で立ち上がる。

 その練習後の氷には、トリプルアクセルをテイクオフした無数の溝がある。深く氷をえぐるカーブと、トウを強く踏み込んだ鋭い穴。いかに強いパワーで氷から飛び立ったのかを語る、実に見事な軌跡だ。

「しばらくは試合やショーも無観客となるので、お客さんがいないのは悲しいことですね。応援の大切さをすごく痛感しています。でもあまり不安にならず、今季は自分がやれること、落ち着いてトリプルアクセルを安定させていくことに集中したいです」

 まずは半年ぶりの公式の場となるドリーム・オン・アイスで、自らの力を証明する。

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