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「歴史に乗っかりたい!」樋口新葉が抱く、トリプルアクセルにかける想い。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2020/09/05 11:40
昨年12月の全日本選手権ではSP4位からFSでほぼノーミスの演技を見せ138.51点。総合206.61点で2位となり、3年ぶりの表彰台に登った。
練習リンクと本番リンクの氷の質がかなり違った。
ところが、ソウルの現地に着いてからは全く跳べなくなってしまった。実は練習リンクと本番リンクの氷の質がかなり違ったのだ。表向きには不安は見せず、戸惑う気持ちをグッとこらえ、本番に賭けた。
「ソウルに着いてから全然跳べなくて『あれ?』と。氷のせいにしちゃいけない、本番リンクなら行けると自分に言い聞かせました。練習よりも試合のほうが集中しているし身体も動いているので、何も考えずに跳べば大丈夫、と思うようにしました」
練習リンクでは一度も成功できないまま、フリーの6分間練習を迎える。本番リンクで練習できる貴重なチャンスである。
「『絶対に跳ぶ』という気持ちだったので、ウォーミングアップのときに、逆立ち、スキップ、側転とかをしてテンションを上げて、変な自信をつけて6分間練習に臨みました。
普段は、全部の3回転ジャンプを2本くらいずつやって6分間を使うけれど、今回はトリプルアクセルを練習したかったので1本ずつにして、しかも結構急いで終わらせたんです。そしたらトリプルアクセルをやる時間が2分以上も残っていました」
着氷の瞬間、左に引っ張られて転倒した。
集中してトリプルアクセルを跳ぶと、1本目で見事に成功。まるで男子のような、飛距離のあるダイナミックな飛躍だった。
「びっくりしました。嬉しくなってガッツポーズしそうになったくらい。岡島(功治)先生を振り返ったら、先生も嬉しそうにコクンコクンと何度も頷いていました。
『跳べた! もういっかいやろう』と思って、何度も跳びました。4本くらい挑戦して、2本はクリーンに成功。でもそれで疲れて体力切れになってしまいました(笑)」
本番は、勢い余って斜めになってしまう。着氷の瞬間、左に引っ張られて転倒した。
「本当はあれくらいの斜めなら降りられるんです。あとちょっとでした。『6分間練習でトリプルアクセルを成功したら、1本で終わり』と決めておかないと、と思いました。でも本当に挑戦して良かったと思います」