ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
守護神として好投続くDeNA三嶋。
「ヤスが注目される理由がわかった」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byAsami Enomoto
posted2020/08/29 11:30
抑え抜擢から抜群の安定感を見せる三嶋一輝。約1カ月で8セーブを挙げた。
マウンドで味わった喜びと違和感。
「試合が終わるとマウンドに笑顔の仲間が集まってきて、ベンチに戻るとハイタッチで迎えてくれる。何とも言えない感覚だったし、そこでいろいろなことを感じたんですよね」
自分自身は元のまま。だが、いざクローザーとなり結果を出すと世界は一変した。三嶋は、チームが勝つことに喜びを感じつつも多少なりの違和感を持ったという。
「スポーツニュースでセーブのところに自分の名前が出たりするじゃないですか。するとまわりの人は『がんばってるね』と言ってくれるんです。うれしいですけど、僕はこれまでどんな場面で投げようが変わらずがんばってきましたからね。それに負けている試合であっても必死に投げている中継ぎピッチャーがたくさんいる。だからちょっとだけ寂しい感じもするんですよ。注目を浴びなくても、チームのためにがんばっている選手はたくさんいるんだよって」
三嶋は真っすぐで正直な男だ。普段はシャイで口数は少ないが、ちょっとおかしいなと思えば忖度なしにそれを口にする。だからこそ“ミッシー”と呼ばれ誰からも愛されている。
三嶋にとっても山崎は特別な存在。
賞賛や高評価の代価として誰よりもプレッシャーと責任の掛かるクローザーというポジション。難しさを経験したからこそ思いを馳せるのは、2歳下の後輩である山崎のことだ。
「みんなが繋いできたものを守ることの重さ。少ししか経験していないけど、身を削るというか、絶対に自分が試合を締めるという強い精神力と腹のくくり方が必要なのはわかりましたよね。ヤス(山崎)は守護神と呼ばれ、それをルーキーのころからずっとやっている。あらためて、すごいなって思いましたし、あれだけ注目される理由もわかりましたよ。以前からリスペクトしていますけど、その思いはより強くなりましたね」
三嶋にとって山崎は特別な存在だ。気さくに言葉を交わす間柄であり、互いを認め合っている。以前、三嶋が中継ぎとして勝ちパターンで投げるようになったとき「ヤスに繋ぐことが、自分の野球人生にとっていいなと思える瞬間だった」とうれしそうに語っていたことがあった。そんな敬愛すべき後輩の存在があったからこそ、三嶋にも気合いが入る。
「9回まで繋がったものを受け取るのはすごくパワーになりますよね。ヤスからはもちろん、コーチやスタッフ、いろんな人の思いを背負い、自分はなにをしなくてはいけないのか……。本当にやることはひとつ。腹をくくって自分のボールを投げることだけなんです」
今ある状況をシンプルにサバイブする。だから三嶋には、山崎が戻るまでクローザーでがんばろうとか、抑えという手に入れた立場を死守したいという気持ちはまったくない。見えているのは自分自身と、どんな場面であろうとチームの勝利に貢献することだけだ。