サムライブルーの原材料BACK NUMBER
横浜F・マリノスに10年ぶりに帰還。
水沼宏太の優しいクロスに見惚れる。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/08/28 20:00
横浜F・マリノスのジュニアユース、ユース出身の水沼。今年、10年ぶりのクラブ復帰でもすぐに馴染んでいる。
味方を思いやる包容力が伝わってくる。
エンジェルクロスと表現するのは、味方がシュートしやすいボールを送ることばかりがその理由ではない。
「散々外して」いても“これならどうだ”とばかりに、味方を思いやる包容力が伝わってくるからだ。
「人に合わせる」が水沼にとってクロスの真髄になるのだろうか。
いや、彼の反応を見ているとそう単純なものではないようだ。
「上げる側とすれば“このボールに合わせてくれ”というのもなきゃいけないところかな、と。
試合中、相手がここに立っているならここに動いてくれよって、その意味を込めたパスをいくつか出したりします。次にタイミングが合ったら、お互いに気持ちがいいってことですよね」
クラブを渡り歩いてきたからこそ。
合わせろ、との命令形ではなく、合わせてくれ、とこちらに誘おうとする。言葉での会話、プレーでの会話を通して自分の意図する“落としどころ”に持っていく。ここのすり合わせがすこぶるうまい。
クロスを、組織に置き換えてみたい。
チームが自分に合わせろ、ではなく、自分がチームに合わせる。
彼は2010年7月、栃木SCへのレンタル移籍を皮切りにクラブを渡り歩いてきた。
サガン鳥栖では仕掛けと無尽のタフネスを前面に押し出してユン・ジョンファン監督の信頼を勝ち取り、FC東京を経て移籍したセレッソ大阪でも同監督のもとでルヴァンカップ、天皇杯制覇にも貢献。昨年はロティーナ監督の指導を受け、ポジショニングの妙を示すなどその意図をくみ取ったプレーで存在感を発揮している。
渡り歩いてきたからこそ得ることができたポリシー。