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史上初“バロンドール”中止の顛末。
世界一のサッカー雑誌で何があった?
posted2020/07/30 20:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Franck Seguin/L'Equipe
7月21日発売号の『フランス・フットボール』誌(以降FF誌)は、2020年のバロンドール(男子と女子のバロンドール、最優秀GKに与えられるヤシン・トロフィーおよび最優秀若手選手に与えられるコパ・トロフィー)を表彰しないことを発表した。同様の記事は、同じ日付の『レキップ』紙(『フランス・フットボール』誌の親会社たる新聞)にも掲載された。
表彰の中止は、1956年にバロンドールが創設されて以来、65年の歴史で初めてのことである。その意味では極めて異例ではあるが、今日の世界を取り巻く状況を鑑みれば妥当な決定であるといえる。
バロンドールはスポーツ的な価値だけではない。
パスカル・フェレ編集局長はFF誌の巻頭で、中止の理由を格調高い文章で謳いあげているが、平易な言葉で要約すると以下のようになる。
まず、バロンドールは、スポーツ的な価値だけでなく、社会の模範的価値、連帯の価値の象徴でもある。つまり今日のような危機的な状況下で、社会の規範や連帯がスポーツ以外の面で求められているときに、スポーツの価値ばかりを全面に押し出すべきではない、ということである。
具体的な理由としては、チームや選手によって試合数や試合の条件に格差が出てきてしまう。しかもここまで例年と同じ条件で試合を行っていたのは1月と2月のみで、再開されたリーグも無観客や観客の制限のもとでの開催である。チャンピオンズリーグにしても、ほとんどの試合が8月にポルトガルで1カ所集中開催となる。そうした状況での選出は、歴代受賞者リストに注釈付きの受賞者を加えることになる。それならば表彰しない方がいいというのが編集部の判断だった。