熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
フラメンゴにクライフ流を注入した
名将の退団は、本田圭佑にも影響?
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byAP Photo/Leo Correa/AFLO
posted2020/07/24 11:30
リオ州選手権を制覇し、胴上げされるジェズス監督。ベンフィカへの帰還はブラジルサッカーに大きな影響を及ぼしうる。
クラブW杯ではリバプールと死闘。
伝統的に攻撃的なチームが好まれるブラジルでも近年、このようなチームはほとんど見かけなくなっていた。
1982年W杯2次リーグでセレソンは「フッチボール・アルチ」(芸術フットボール)と呼ばれる美しいプレースタイルで世界中のファンを魅了したが、試合巧者イタリアの前に敗退。この衝撃は大きく、以来ブラジルでは代表、クラブともにやや守備的な方向へ舵を切っていた。
その流れにブラジルの旧宗主国出身の監督が反旗を翻したのである。
ジェズス率いるフラメンゴはまず、昨年初めのリオ州選手権で優勝を果たした。
そして南米クラブ王者を争うコパ・リベルタドーレスでは、グループステージを首位で突破。ファイナルステージでも強豪を次々となぎ倒す。決勝ではアルゼンチンの名門リーベルプレートに先制を許したが、終盤、ガビゴールが2点を叩き込んで逆転勝ち。1981年以来、39年ぶり2度目の優勝を遂げた。
またブラジルリーグでも、2位に勝ち点16の大差をつけ、10年ぶり6度目の優勝を果たした。2度目の黄金時代の到来にフラメンギスタは狂喜し、スタンドは常に超満員。昨年のブラジルリーグにおける平均入場者数は5万5000人を超えた。
ジェズスは救世主として崇められ、エースストライカーのガビゴールを凌ぐほどの人気者となった。彼のそっくりさんがスタンドに現われ、周囲に愛嬌を振りまいて写真撮影やサインに応じたほどだった。
12月にカタールで行なわれたクラブW杯こそ、決勝で欧州王者リバプールに延長の末に0-1で敗れて準優勝に終わったが、ほぼ文句の付けようのないシーズンだった。
戦術家でありながら豊かな人間性。
ジェズスは、戦術家であると同時に、豊かな人間性でクラブ関係者、選手、地元メディア、ファンらを魅了した。
たとえば、天才肌で勝手気ままにプレーする印象が強いガビゴールについて聞かれたときのこと。
「彼のことを無責任だと非難する人がいる。しかし多少、無責任なところがあるからこそ、コパ・リベルタドーレス決勝の大舞台でも、まるで近所の空き地で友人とボールを蹴っているかのようにリラックスしていて、大きな仕事をやってのけるのだ」
こう弁護してみせた。さらに、今年のリオ州選手権も制覇。クラブ関係者とファンは「死ぬまでフラメンゴを率いてほしい」と口々に語り、ジェズスもその思いに応えて6月初め、フラメンゴとの契約を1年延長。「今年こそ、世界の頂点に立ちたい」と語った。
ところが、それからわずか1カ月半後、古巣ベンフィカへの復帰を発表する。その理由について、本人は「ポルトガルへ帰る時期が来たと感じた」としか語らない。