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井上尚弥のいとこ、井上浩樹は
なぜオタクボクサーになったのか。
text by
齋藤裕(Number編集部)Yu Saito
photograph byKoki Inoue
posted2020/07/15 11:30
自宅からも伝わるアニメへの愛。最近は恋愛アドベンチャーゲーム『Rewrite』を再びプレーしている。
「中二病」を発症し、「未だに患っている」。
マンガはボクシングにも影響を与えた。
「『バガボンド』という宮本武蔵が主人公の剣士をテーマにしたマンガがあるんですけど、あれは僕の中で教科書といっていい作品ですね。
沢庵宗彭という和尚さんが主人公の武蔵に語った『一本の樹にとらわれては森は見えない』という言葉があるんです。たしかにボクシングでも相手の拳だけをみていたらダメで、もっと視野を広く全体を見ようと今も教科書のように心に留めている言葉です。
また武蔵が『力に頼るばかりではダメだ』と自身の戦い方を変えていくのですが、当時自分は『力を入れて殴るのは誰でもできる。力を入れないで強く打つというのを心がけて、いかにリラックスしている状態から強いパンチを放てるか』ということをずっと考えていた。自分の考えと同じことを武蔵がやっていて『やっぱりこれだよな』と背中を押してもらいました」
そうやって、マンガ、ゲームに触れていた浩樹少年は“死神武器職人専門学校”を舞台とするマンガ『ソウルイーター』などを読み、いわゆる「中二病」を発症。「未だに患っている」と不敵な笑みを浮かべる。
「これが田井中律か……」
高校は相模原青陵高校に進学。通常、高校ボクシングでは、選抜、インターハイ、国体の3大会が頂点となり、高校生ボクサーはその3つのタイトルを制覇する三冠を目指す。しかし当時井上は全く別の“タイトル”に夢中になっていた。
『けいおん!』──。
女子高生5人が軽音楽部でバンドを組み、学園祭のライブを目指す。その日常を描いた同作品は、京都アニメーションがアニメを制作し、2011年には映画化。関連楽曲がアニソンとして史上初めてオリコン1、2位を独占するなど社会現象となった。
井上浩樹も高校生としてその渦中にいた1人だ。
「高校の友達にこのキャラかわいいよねと教えてもらって、見たアニメが『けいおん!』でした。ドラムの“りっちゃん”(田井中律)が普段おでこを出しているんですが、髪の毛を下ろすシーンがあって、そこでドキュンと。『これが田井中律か……』とその破壊力にやられました」