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「来い、来い」アフマダリエフの挑発後にあった井上尚弥の“異変”「試合を象徴するシーン」最強挑戦者を圧倒…なぜ“判定狙い”でも魅力的だったのか?
posted2025/09/15 12:22
井上尚弥はスマートなアウトボクシングを貫き、ムロジョン・アフマダリエフを圧倒。KOだけではないボクシングの醍醐味を見せつけた
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が9月14日、名古屋市のIGアリーナに登場。元2団体統一王者の挑戦者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に3-0判定勝ちを収め、4団体王座ベルトを守った。
「肉体がシャープに」当日体重に表れた意図
ボクシング界の生き字引である93歳の名物プロモーター、ボブ・アラム氏のご満悦ぶりがこの日の試合を物語っていた。
「今日は井上が完璧なファイターであることを見せた。スピード、テクニックだけではなく、戦略に沿って戦うことができ、それが彼を偉大なファイターにしているのだと分かった」
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井上はMJこと元王者アフマダリエフを最強の挑戦者だとみなしていた。一発のパンチ力があり、体つきに厚みがあってパワーがある。リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得しており、テクニックにも長けている。プロに転じてわずか8試合目で2団体統一王者になっており、キャリアも申し分ない。少なくともここ3戦の相手(TJ・ドヘニー、キム・イェジュン、ラモン・カルデナス)とは明らかに違う。だからこそ井上は最大の警戒心を持ち、あえて「判定決着で構わない」と言い続けてリングに上がったのである。
井上の肉体がいつも以上にシャープに見えた。本人が「12ラウンドしっかり動ききるということで少し軽めにした」と説明した当日体重は61.5kg。今年1月のキム戦が62.9kg、ドヘニー戦が62.7kgだから「少なからず軽め」だ。
初回の立ち上がりは有言実行とばかりに慎重だった。ガードを高く掲げ、しっかり距離を取り、アフマダリエフがパンチを放つと、鋭いバックステップで外す。出入りが速い。もちろん守るだけではない。生命線であるジャブをタイミングよく突き、ロングレンジから踏み込んでボディに右ストレートを突き刺す。意図がはっきりと伝わってくる戦い方だ。

