『けいおん！』の影響で軽音楽部に。

“りっちゃん”に衝撃のKOを喫した井上はすぐさま軽音楽部に入部。楽器はドラムではなくベースに挑戦したものの、りっちゃん愛を貫いた。

　アニメにはまりながらも、高校では3冠を獲得。高校時代に今のオタクボクサーと呼ばれる原型が出来上がっていた。

　多感な青春時代、周囲から“オタク”と呼ばれることに抵抗感はなかったのか。

「抵抗感はなかったですね。自分が良いと思っているものは良いと思っていたので」

　大学に進学するとその信念はより強くなり、寮内でついにアニメやマンガ作品を他人に勧める熱烈な“布教”活動を開始。ボクシング部の練習後、気づくと寮の自分の部屋でみんながアニメを見ていた。

「人によって性格とかも考えて勧める作品は変えていきました。当時は1クール(約3カ月間、10～13話)の『はたらく魔王さま！』などを勧めることが多かったですね。人によっては『とらドラ！』を勧めることもありました。

　そこから友達が（アニオタの）沼に、はまっていってくれましたね。ポイントは2作品目から『こういうのはどうか？』と傾向を少し変えていくこと。そうやって最終的に僕の好きな『CLANNAD』とかのKey作品に持っていきたいんです」

井上尚弥に“布教”した結果──。

　パンチを繰り出すようにポンポンと出てくるアニメタイトルの数々。観察眼とその対応力で相手を翻弄し、周囲をアニメ好きに変えていったオタクボクサーは布教活動をさらに広げ、勇躍大敵に挑む。

　その大敵とは従兄弟でもあるモンスター・井上尚弥だった──。

　ボクシングを始めたときから練習を一緒に行ってきた従兄弟の井上尚弥・拓真兄弟。大学に進学し、布教活動に自信を深めていた井上浩樹はこの2人にその面白さを知ってもらいたくてしょうがなかった。まず最初のターゲットは兄・尚弥だった。

「一緒にTSUTAYAに行って、当時話題にもなっていて、手に取りやすい『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を勧めて借りてもらったんですよ。ただそれでも、確か見てくれなくて……、何回かチャレンジしたんですけどね。尚弥は本当に自分が気になったものしか見ないと思います」

「開始30秒で相手の能力や相手との距離感を見切る」と言われる井上尚弥。その見切りは早かった。

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