試合1カ月前に田中に試練が襲い掛かる。

　そんな田中に試練が襲い掛かる。試合の1カ月ほど前に怪我でスパーリングができなくなってしまったのだ。

　これには頭を抱えた。実戦練習から遠のくだけではない。田中はスタミナ抜群の木村を攻略するため、スパーリングを通してそれに対抗しうるスタミナを強化しようと目論んでいたのである。

「正直かなりヤバイと思いました。どうしたらいいのか……。そのとき、フィジカルトレーナーからは『スパーをしなくても走り込みとか他の練習でスタミナはつけられる』と言われたんです。

　走って身につくスタミナとボクシングのスタミナはイコールじゃない。でも、あのときはそれを信じるしかなかったんです」

　危機感を抱きながら、田中は「大嫌いな」走り込みをこれでもかと続けた。それが結果的にメンタルの強化につながった。

　田中はこの試合のポイントを「メンタルの勝負」と考えていた。怪我が招いた単調なフィジカルトレーニングは、リングの中で田中を助けることになる。