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木村翔×田中恒成、2018年世界戦。
エリートを襲った“恐怖心”と怪我。
posted2020/07/09 11:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
(第2回「エリート田中恒成が打ち合いを選択。木村翔の右フックにぐらつくも──。」、第3回「田中恒成『これだけ必死だったのは初の世界戦と木村さんの試合ぐらい』」は記事最終ページ下にある「関連記事」からご覧ください)
2018年9月24日、WBO世界フライ級タイトルマッチが名古屋市の武田テバオーシャンアリーナで開催された。
チャンピオンは木村翔(青木=当時)、挑戦者は田中恒成(畑中)。日本人選手同士による世界タイトルマッチはまれにみる激闘となり、この試合はメディアが選ぶ2018年の年間最高試合に文句なしで選ばれた。
いま、魂をぶつけ合った両雄が熱き一戦を振り返る――。
“雑草vs.エリート”のファイト。
3度目の防衛を目指す木村と、この試合に世界最速タイ記録となる12戦目での3階級制覇をかける田中。メディアはこれを“雑草vs.エリート”のファイトと表現した。
手垢のついた表現とはいえ、2人のたどってきたキャリアを比べれば、そう呼びたくなるのは仕方のないことだった。
中学3年でボクシングを始めた木村は、ほどなくこの奥深いスポーツに興味を失い、やんちゃな10代を過ごす。ボクシングを本気で再開したのは20歳を過ぎてからで、24歳で迎えた2013年のプロデビュー戦はまさかの黒星発進だった。
それでも努力を重ね、まったくの無名だった2017年7月、アウェーの上海に乗り込んで中国のスター選手、五輪2大会金メダルのゾウ・シミンから世界タイトルを奪取。酒屋でアルバイトをしながら練習に打ち込み、番狂わせを演じて世界王者になった木村は紛れもなく雑草のヒーローだった。
一方の田中は父斉さんの指導を受けて小学生でボクシングを始め、のちに東京五輪代表に選ばれる兄亮明とともにキャリアを重ねた。
高校時代に制覇した全国大会は4つ。プロに転じるとデビュー戦でいきなり世界ランカーに勝利し、日本最速記録となる5戦目で世界王座を獲得。無敗のまま2階級制覇も達成するという記録ずくめのキャリアを歩んでいた。