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ラグビーW杯、日本×南アフリカ。
「何回でも泣ける」熱狂の日の記録。
text by
村上晃一Koichi Murakami
photograph byAFLO
posted2020/06/30 19:00
カーン・ヘスケスの歴史的トライ。ジャパンウェイが結実した瞬間だった。
同点残り10分。最後の総攻撃。
スコアは二転三転。後半、日本からやって来たサポーターから発生した「ニッポン、ニッポン」のコールは、次第に「ジャッパン、ジャッパン」に変わった。
後半28分、22-29の南ア7点リードの場面で日本がサインプレーを仕掛ける。
南ア陣へ20mほど入った左のラインアウトだった。交代出場のSH日和佐篤からボールはCTB立川へ。何度も縦に切り込んでいた立川の動きで防御の足が止まった。次の瞬間、立川は右に移動していたSO小野にパス。慌てた南アのCTBが2人で小野に向かったところで内側に走り込んだ松島が抜け出す。最後は五郎丸が楕円球を大事に抱えてインゴールに滑り込んだ。
「事前の分析で南アフリカの防御が空くのはわかっていました」(五郎丸)
この日、24得点をあげた五郎丸が右隅の難しい位置からゴールを決め、29-29の同点となる。残り10分。直後のピンチの連続を1PGに抑えた日本は、観客席の大声援を背に最後の総攻撃に出る。
「カモーン! ジャパーン!」
何度となくゴールに迫った試合終了間際、ゴール前左中間でPGチャンスを得た。スコアは3点差。世界中のコーチが「(PGを)狙え」と叫ぶ場面である。引き分けでも勝ち点は「2」。プール戦では勝ち点を加算することが大切だからだ。
しかし、日本代表は違った。「勝つためにスクラムを選択しました」(リーチ)
「ブレイブ・コール」と元スコットランド代表監督のイアン・マギーカン氏が賞賛したキャプテンの勇敢な判断に、スタジアムが熱狂する。
「カモーン! ジャパーン!」
ここで勝たなければ歴史は変わらない。日本ラグビーを支えるすべての人々の思いがそのスクラムに凝縮された。