フランス・フットボール通信BACK NUMBER
史上最高のワールドカップはどの回だ?
後編・イタリアは砕け散るだろう。
text by
エリック・フロジオ&バレンティン・パウルッツィEric Frosio et Valentin Pauluzzi
photograph byL'Equipe
posted2020/06/30 11:45
父と同じサッカー選手としての道を進んだアレッサンドロ・マッツォーラ。イタリア代表としてメキシコW杯決勝ではブラジルとぶつかった。
イタリアは後半砕け散るだろう。
M:準決勝では消耗しつくした。疲れ切ったうえに、2000m以上の高地でのプレーを強いられた。対してブラジルはずっと海抜の低いところで戦ってきたことにも苛立っていた。ブラジルは実力で上回っているうえに、常に有利になるように護られているという思いが私たちにはあった(ブラジルは初戦から準決勝までをすべてグアダラハラで戦った。その有利はあったものの、グアダラハラは海抜約1500mで低地ではない。海抜が低いというのはマッツォーラの誤解と思われる)。
バルカレッジは準決勝と同じスタメンで決勝に臨んだ。いずれにせよスタメンを変更するのは得策ではなかった。サブのメンバーたちはさほど熱心に練習に取り組まず、気持ちもちょっと離れていたからだ。
――前半は拮抗していたのに対し、後半はブラジルが圧倒的に支配しました。どうしてそうなったのでしょうか?
T:まずフィジカルの差が違いを作り出したと思う。その点でブラジルは最もよく準備していたチームだった。ペレ、ジェルソン、ジャイルジーニョ……、イタリアはすべての選手にマンツーマンでマークをつけた。それだけでも疲労の度合いは大きかったはずだ。
ハーフタイムに私たちは、イタリアが後半も同じリズムを維持するのは難しいと見ていた。前半ですでに疲弊していたからだ。
「彼らはもう死んでいる。すぐに砕け散るだろう。後半は前半よりずっといい試合になるハズだ」と、ロッカールームで話し合っていた。
スパイクの紐をほどいていたら。
実際、その通りのことがピッチで起こった。
M:私はこれまで同様に、決勝も前半だけで交代だと思っていた。だからハーフタイムには、スパイクの紐をほどき始めていた。するとバルカレッジが大声でこう叫んだ。
「お前は何をやってるんだ! アホか。ピッチに戻るんだ!」と。
だが、私たちの脚はすぐに止まってしまった。ブラジルの2点目の後は疲弊して立ち直れず、試合は実質1時間で終わってしまった。監督がリベラを投入したのは試合の最終盤、84分になってのことだった。この交代が試合の何かを変えたとは私には思えない。たしかにブラジルには、私たちよりずっと瑞々しい体力があった。
――試合終了のホイッスルが鳴ると同時に群衆がピッチに乱入し、あなた(トスタン)は揉みくちゃにされました。
T:気がついたらパンツ1枚になっていた(笑)。彼らは私のシャツを奪い、ショーツを奪い、スパイクまで奪い去った。パンツまで奪いかねない勢いだった。丸裸にされるのではと本気で心配したよ。感激にひたりたいのにパニックに陥った。警官が私を群衆から救い出し、護ってくれたんだ。