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ラグビー新リーグはどうなる?
谷口真由美室長を野澤武史が直撃!
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/06/28 11:40
2021年秋以降の発足を目指すラグビー新リーグ。改革を先導する谷口室長は、現時点での構想を明かした。
競技性だけでなく、興行面でも点数化を。
野澤 新リーグでコンテンツとしての面白さをどう出していくかですが、そこはおそらく協会がチームと一緒に取り組まなければいけない部分だと思います。
谷口 面白さをどう出すかというところで言うと、実は順位だけで評価しないことにしています。興行面なども点数化して、毎年の評価の指標に入れていく予定です。単に競技性だけを追求したら、強いか弱いかだけの話になってしまいますから。あとはやはり試合の面白さは、ファンの力が大きいと思っています。だからこそチームや選手には日頃からファンを楽しませたい、喜ばせたいという気持ちでいてほしい。その上で、品のある魂のこもったラグビーを見せてほしいですね。
もちろん、リーグが続くなかでヒール(悪役)のようなチームが出てくるかもしれない。それをブランドとして貫き通せるのなら反社会的にならない範囲でやってください、と思っています。ただアウトローな発言や振る舞いがあったとしても、試合の時はレフリーを尊重して規律正しくプレーする、という方が良いですよね。その二面性は「萌え」な感じじゃないですか(笑)。
野澤 僕はコンテンツの面白さは「物語」であると思っています。僕は野球映画『メジャーリーグ』が好きなんですが、主演のチャーリー・シーンが所属するインディアンスは連敗続きで、ファンも実況もブーイングを浴びせている。でもそれはチームに愛情があるからで、だからこそ優勝した時に涙がボロボロ出る。負け続けていることもストーリーのひとつですよね。
谷口 阪神タイガースのファンが離れないのはそういうところでしょうね。
野澤 僕が所属した神戸製鋼は三宮(神戸)の近くの御影にグラウンドがあったんですが、練習に行く時に電車に乗ったら、ワンカップを持ったおじさんが一番狭いシートで昼間から呑んでいる(笑)。阪神タイガースはこういうおじさん達のヒーローなのかもしれない、とその時感じましたね。
谷口 分かります。ホストエリア、ホストタウンを持って頂きたいというのはそういうことです。最近は不審者を排除する風潮があるから、公園でワンカップを持ったおじさんを見なくなったでしょう。でもそういうおじさんが昼間から練習を見にくるスポーツはすごいと思います。そういうおじさんが練習を見ているというだけでも十分にストーリーだと思う。こちらも「おっさんあんま昼間から飲んでたらアカンで」「家帰りや」とか言いながら(笑)。最高やなと思いますね。ラグビーにはいろんな人とユニークに付き合っていける寛容さ、鷹揚さを持っていてほしいですね。
当り前じゃないと気付かせるのは外の人間。
野澤 ラグビー界に染まった我々と違う物差しを持っていらっしゃる谷口さんが入ってきたことは、良い化学反応をラグビー界に起こしてくれるものと思っています。良くも悪くも、我々はラグビー界の「常識」という定規に当てて物事を判断してしまいがちです。
谷口 私は誰に紐付いているわけでもないので、ある意味で怖い物知らず。大学の先輩後輩とか、同じチームにいたとか、そういう関係がない。ラグビー界では「あいつにちょっと言っとけ」みたいなことはよくありますよね?(笑)
野澤 「ラグビー界あるある」ですね(笑)。
谷口 上下関係を気にしなくて良いという意味で、私は横軸の串を刺すために今ここにいるんだろうなと思っています。地域協会とかレフリーとか、色んな所に行って「これから変革がありますから、ちょっとチクッとしますよ~」という仕事です。自分の役割は、慣性の法則のはじめの力を作っていくことで、手を離したときにすっと流れていく仕組みを作って、あるところまでボールを持っていくこと。あと3、4年かな、と思っています。
野澤 そう言っていた人が組織に15年くらい残っていたりしますけどね。一番偉くなっちゃったりして(笑)。
谷口 いやいや(笑)。今はとにかく役目を果たすまではケツ割らないでやらなアカン、と思っているところです。ラグビー界の人同士は喧嘩しなくていいんです。「外からきたおばちゃんがワーワーやってるわ」という方が動きやすいならそれでいいと思います。何を言われようと、私の目的は動いて変えていくこと。日本ラグビー界の中継ぎ役だと思っていますし、その役割を終えたら「あとはお願いします」と手を離すつもりでいます。