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あのとき猪木の舌は出ていなかった。
大どんでん返しのIWGP決勝戦秘話。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/06/28 11:00
IWGPリーグ優勝決定戦。リング上で昏倒するアントニオ猪木。セコンド陣が必死に目を覚まそうとしていた。
アンドレと前田日明。初めての邂逅……。
IWGP決勝リーグは5月6日、福岡スポーツセンターで開幕した。
開幕戦の目玉カードは猪木とアンドレの対戦、猪木は早い決着を狙っていた。ところが猪木がショルダースルーでアンドレを投げたまでは良かったが、アンドレの体が場外フェンスを越えてしまい、猪木の“オーバー・ザ・フェンス”での反則負けになってしまった。
当時の新日本プロレスには、リングの周りと観客席を分けているフェンスを自分から故意に越えていった場合と、故意に相手をフェンス外に出した場合は、その時点で負けが宣告されるという不可解なルールがあったのである。
前田とアンドレの対戦は5月13日、大宮スケートセンターで行われた。前田とアンドレの初遭遇の日だった。
前田は持ち前の元気の良さを見せて、アンドレの胸板に強烈なカカトをぶち込んでいた。ファンが歓喜した一撃だった。アンドレにはさすがに及ばなかったが「前田やるじゃないか」という強い印象を残した。
アンドレの野望を砕いたのはキラー・カーンだった!?
アンドレが着実に勝ち星を伸ばす中で、それを追う猪木とホーガンのリーグ戦での初戦は5月19日、大阪府立体育会館で行われた。
白熱の攻防だったが、場外でホーガンが猪木を担ぎ上げると、リングサイドで試合を見ていたアンドレがフェンスの外に飛び出した猪木の足先を捕まえて引っ張った。猪木とホーガンは2人とももつれるようにフェンスの外に飛び出してしまった。結局2人は勝ち点を伸ばせず、アンドレの一人勝ちが濃厚になっていった。
そんな悪どいプレーを見せたアンドレの優勝決定戦進出を阻んだのは、なんとキラー・カーンだった。
優勝決定戦前日の6月1日、名古屋・愛知県体育館で文字通りアンドレの足を引っ張り続けて両者リングアウトという共倒れを選んだのである。
結局アンドレは3位の勝ち点36でリーグ戦を終えた。これによって、翌2日の蔵前での優勝戦は猪木vs.ホーガンに決定したわけだ。