濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
木村花の“不在”と向き合いながら。
スターダム、新戦力も登場の興行再開。
posted2020/06/27 20:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
女子プロレス団体スターダムが、3カ月ぶりに興行を再開した。
6月21日、会場は新木場1st RING。観客数限定、ファンクラブ会員だけがチケットを購入できる大会だ。
試合を待ち兼ねたファンが、まず会場で“会った”選手は木村花だった。5月23日に亡くなった彼女への、追悼テンカウントゴング。スクリーンに映し出された顔は笑っていた。
続いてジャングル叫女がリングへ。欠場の挨拶だった。
「自分の中で気持ちの整理がつかず、闘える状態ではありません。でも今より何倍も、何十倍も強い心でリングに戻ってきます」
亡くなる前の数カ月、「できる限り花のそばに」いたのが叫女だった。花の不審な書き込みに、自宅へ駆けつけたとも言われる。それからまだ1カ月。闘える状態にないのが当然だった。コロナ禍の前は、2人とこんな形で再会するなんて誰も思っていなかった。
華々しくあるべき興行再開は、あらためて木村花の死を受け止める儀式にもなってしまった。しかしそれ抜きでは前に進めないし、プロレスラーにもプロレスファンにも試合が必要だ。我々にとってプロレスは“不要不急”などではない。それを嫌というほど思い知らされたのが、この3カ月だった。
花に“ドラフト指名”された13歳の涙。
第1試合、3WAY戦で海千山千の夏すみれがレフェリーを巻き込みつつ観客を盛り上げ、笑わせにかかる。正直なところ、客席の反応はまだ固かった。それでも、いつも通りの試合をしようとする夏の姿勢そのものに救われるような気がした者は多かったはずだ。
この試合で勝ったのは吏南。昨年春の「ドラフト」で花に指名されユニットTOKYO CYBER SQUADに所属することになったホープだ。フィニッシュは花の得意技「ハイドレンジア」と公式記録に記された。
「あの一件があってから、どうしていいか分からなくて……」
インタビュースペースで涙を拭いながら、それでも13歳の中学生レスラーは気丈だった。
「(花の母)響子さんに“吏南ちゃんがプロレスやってるのが、花は一番うれしいから”と言われて。花さんに届くくらい全力で頑張ろうと思いました」