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宝塚記念馬サイレンススズカの記憶。
武豊が見たサラブレッドの「理想」。 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

PROFILE

photograph byTomohiko Hayashi

posted2020/06/27 11:45

宝塚記念馬サイレンススズカの記憶。武豊が見たサラブレッドの「理想」。<Number Web> photograph by Tomohiko Hayashi

胸のすく大逃げからの快勝、圧勝でファンの記憶に残り続けるサイレンススズカ。しかし、GI勝利は宝塚記念だけだった。

前扉の下を潜りに行ってしまった。

 デビュー戦で楽勝し、まだ2戦日にもかかわらず2番人気に支持された皐月賞トライアル・弥生賞でのこと。

 14頭立ての8番ゲートにすんなりと収まったまではよかったのだが、ゲートの中まで付き添っていた加茂が「出ろー!」の合図で前扉の下をくぐって退避すると、なんとサイレンススズカは加茂のあとを追うように、真似をして前扉の下を潜りに行ってしまったのだ。

 他の馬とは比べものにならない体の柔らかさがあったからこそできた芸当で、普通の馬はやろうとしてもこんなことはできない。

 騎乗していた騎手の上村洋行でさえも「馬がなにをしようとしているのかもわからず、一瞬見入ってしまった」そうで、気付いたときには、ゲートの扉と馬の間に挟まれてしまっていた。

 仕切り直しで外枠発走になると、今度は致命的な出遅れ。1コーナーを回る時点で、すでに圏外の位置に追いやられていた。

 それでも、4コーナーでは「差しきれるか」と思える位置まで取りついていた。結果はさすがに息切れして8着だったが、あまりに大きな出遅れを考えれば能力の非凡さを証明していた。

 しかし当事者である厩舎サイドは、期待をかけている素質馬に対して、悩みばかりが深まり、焦りを感じていた時期だった。

(Number689号「1分56秒──理想のサラブレッド、サイレンススズカ」より)

後編「武豊に聞く。ディープインパクトはサイレンススズカを差せるのか。」は下の「関連記事」からご覧になれます。

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