サムライブルーの原材料BACK NUMBER
元教師で今はJリーガー兼営業マン。
異色の経歴、FC今治・中野圭に聞く。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byFC Imabari
posted2020/06/26 17:00
主力選手の1人として活躍しながら、地元スポンサーへの営業回りも続ける中野。いよいよJ2昇格をかけたリーグ戦が始まる。
教師との両立は簡単ではなかった。
彼はクラブの公式サイトにあるプロフィールに「尊敬する人」として妻を挙げている。サッカー選手と教師の両立は思った以上に大変で、子育ても妻任せになってしまったという。
家族に対する感謝はモチベーションに変わった。心身ともに疲労を感じた日はあるものの、仕事のやりがいがサッカーにプラスに働くというのは新たな発見だった。
「定時制の生徒は働いている子が多い。同世代よりもちょっと大人なので、近い目線でコミュニケーションを取れましたし、自分のことをお兄ちゃん的な存在に見てくれました。試合も見にきてくれたりしましたから。
教員の仕事は自分には不慣れなことが多く、両立は簡単ではなかったですけど、サッカーをするには良い影響が出たかなって思っています」
教員との両立を図った3年間、中野は選手としても人間としても成長を遂げる。キャプテンマークを巻き、JFL選抜にも選ばれた。そして「ずっとこのクラブにかかわりたい」との新たな夢が芽生えたことで今度はバックオフィススタッフとの両立を決心する。
「パートナーへの取り組みを通して自分の仕事が、より会社の成長につながっている感触を得られているのがうれしいです。子供が起きているうちに帰れているので、それもありがたいですね」
目標は昇格1年で優勝してのJ2昇格。
J3での戦いがようやく幕を開ける。
FC今治は今季、エスパニョーラやグラナダの育成組織で指導経験を持つスペイン人のリュイス・プラナグマ・ラモス監督が就任。攻撃型のベースを発展させつつも、勝負に比重を置いたスタイルを構築しているという。
開幕戦となるFC岐阜とのアウェーマッチ(27日)に向けて、チームの状態も上がっているようだ。
「これまではリードしている試合で無理に攻めて同点に追い付かれてしまうとか、引き分けで終われずに負けてしまうとか、少し不安定な戦い方がありました。そのところを(リュイス監督が)今はこういうときだからこう戦おうとか随分と整理されてきて、チームとして大人になっていってるのかなという感じは受けています」
目標は昇格1年で優勝してのJ2昇格。そして、働きながらJリーガーとして上を目指すことは可能だと証明したいという思いもある。
「選手のうちからできること、やりたいことはあると思うし、両方やる相乗効果もあるはず。1人のサッカー選手として、1つの在り方を示すことができたらいいなと思います。そして何よりも今治にもっとサッカーを根づかせていきたいですね。週末にサッカーがあることが日常になるように。そのためにも結果を出して、J2に昇格したいですね」
二足のわらじは、金のわらじとなりて――。
根気強く、信じる道を歩んできたからこそ、夢に一歩ずつ向かっていく力強さが中野圭にはある。