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ウサイン・ボルト、世紀のよそ見。
北京五輪決勝レース秘蔵の連続写真。
text by
赤木真二Shinji Akagi
photograph byShinji Akagi
posted2020/06/09 20:00
200mという20秒弱のレースで、ボルトは視線を上方へ送った。その視線の先にあったのは……。
視線が他の選手と違う……?
直線に入る直前の6コマ、ウサイン・ボルトはスタジアムの反対側のビックスクリーンに目をやっているように見える。第4レーンのクロフォードの視線とは明かに違う。もっと高い所を見ている。自分の順位と他選手の位置取りをモニターで確認するかのようだ。
6コマを更に見ると、80メートル付近で内側=左足が着地した時に視線を上げている。そこから3コマで2歩、同じパターンで2歩、その間、視線は遠方の高い所に行ったままだ。そして、自分の位置を確認し終わった時、つまりほぼ直線の入り口にさし掛かった時、歯を食いしばって、腕の振りが力強くなったように見える。
「もうちょっとマジで走るか!」的な。
21世紀、稀代のスプリンタ―ここにあり。195センチ、93キロの巨体はハイテクスタジアムの情報源を駆使して走る「優れ者」であった。
向かい風0.9メートル。速報タイムの19秒31は、正式タイム19秒30に変わっていた。2/100秒、マイケル・ジョンソンのアトランタでの記録を更新したWR。私はそれが撮れてほくそ笑んでいた(現在の世界記録は2009年ベルリンでボルト自身が記録した19秒19)。
「サッカーのEPSだったよね!!」
3日後、サッカー決勝でFIFAのニコラスにお礼を伝えた。その晩、優勝したアルゼンチンの写真をボブに送り、ボルトの走りも数点添えた。
時差はあったが即返信がきた。
「シンジ! メッシの写真ありがとう。オランダではオリンピックのサッカーは誰も気にしていないけれど、ボルトは誰でも知っている。ところで、君に譲ったパスはサッカーのEPSだったよね!!」
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。