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ウサイン・ボルト、世紀のよそ見。
北京五輪決勝レース秘蔵の連続写真。
text by
赤木真二Shinji Akagi
photograph byShinji Akagi
posted2020/06/09 20:00
200mという20秒弱のレースで、ボルトは視線を上方へ送った。その視線の先にあったのは……。
サッカーのパスで何が撮れるか?
実際のADカードが手元に届いたのは8月になった頃だった。ギリギリの手配でエアーを押さえ、8月6日の夜に北京に入った。サッカー競技は開会式前に始まり、天津と北京を2往復して日本代表を撮影した。しかし、残念なことに結果は2連敗。大会3日目にして男子サッカー日本代表の敗退が決まった。
さて、残り2週間、EPSという単独競技パスで何が撮れるか? そこから広大な北京オリンピックパークの探索が始まった。
水泳、NG。体操、NG。フィールドホッケー、OK。テニス、OK。外部の野球とバレーボール、OK。
ダルビッシュ有を撮り、栗原恵を撮り、テニスの女子ダブルスでウイリアムズ姉妹の優勝を撮り、男子シングルスでラファエル・ナダルを撮った頃、陸上競技は男女の100メートルが終了していた。
200メートルのコーナーに陣取る。
いよいよ「鳥の巣」での撮影をスタートさせる前にメディアセンターでリサーチに廻り、大会スタッフによるパスのチェックを確認した。大丈夫、フォトグラファーズベストを着ていればノーチェック! という返答が大半であった。
8月20日。200メートルのゴールに群がるフォトグラファーを横目に、私は第4コーナー沿いの堀からトラックサイドにあがり、直線のメインスタンド側にあるリモートカメラのレールの横に陣取った。
号砲一発。第5レーンの黄色いウエアだけを凝視すること4、5秒!
第6レーンのジンガイ、第7レーンのマルティナ、第8レーンのディックスに視界を遮られることなく、ボルトはトップでコーナーを駆け、すさまじい走りでメインストレートへと過ぎ去って行った。
1/1600秒のシャッター速度で16コマ。Nikon D3は1コマもフォーカスを外すことなく彼のコーナーリングを捉えていた。そして、その1コマ1コマを見て目を疑った。