プロ野球亭日乗BACK NUMBER
松井秀喜、5月1日プロ一軍デビュー。
507本塁打、2643安打への衝撃と障壁。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/05/01 18:00
1993年5月1日、巨人・松井秀喜外野手が第2打席で、ヤクルト・西村龍次投手からプロ初安打となる中越え二塁打を放った。
石井一久のカーブに腰がひけた。
確かにこのときの松井には、入団当初から今までのルーキーでは想像できないスケールの大きさ、そして打撃のクオリティーの高さがあったのは紛れもない事実だ。
ただプロの世界はそんなに簡単でもない。
実戦が始まると大きな壁にぶつかった。
本人が1年目のオープン戦の記憶としてよく語っているのが、ヤクルトの石井一久投手(現楽天GM)との対戦だ。
「オープン戦でいきなり当たったのが石井さん。カーブを投げられた瞬間に、見たことないものを見たと思いました。ど真ん中のカーブに僕は腰がひけた。当たると思ったら、そこから曲がってストライクになった」
この一件だけでなく左投手の内角攻めを意識するようになり、身体が開くと外に逃げていくボールがどんどん遠くなって空振りが増えていく。
オープン戦の成績は打率1割にも満たず(9分4厘)、三振はワーストの20個を数えた。
2月には決してボール球には手を出さなかった松井が、プロの洗礼を受けた3月にはすっかりスイングを狂わせてしまったのである。
「落としたことを後悔させてやりますよ」
「このままでは上(一軍)でやるのは当分、ムリでしょうね」
そんな松井に長嶋監督の断が降ったのは、4月10日の開幕3日前のことだった。
須藤豊ヘッドコーチから二軍落ちを通告された松井は、報道陣に囲まれて悔しさをにじませてこう語った。
「落としたことを後悔させてやりますよ」
実は翌日の新聞では「後悔させるように(二軍で)頑張ります」と伝えられたが、実際にはもっと語調も強く「後悔させてやります」というものだった。
「落とされても当然の成績だったんですけどね。でもやっぱり悔しかったから、あんな生意気なことを言ったんでしょうね」
松井はこのときを振り返って、後にこんな風に言っていた。
ただ、確かに高卒1年目の選手の言葉にしては、あまりに強すぎる。そのことを慮った松井番の担当記者が、少し配慮してコメントでは「頑張ります」という言葉を付け加えた。
どうやらそれが真相のようである。