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2008年の長谷部誠に感じた言葉力。
その優しさを今、改めて実感する。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2020/04/22 20:00
ヴォルフスブルク時代の長谷部誠。浦和を旅立ち、日本を背負って立つプレーヤーとなった頃だ。
「異様」な無骨さの工業都市。
ヴォルフスブルクの場所は、ドイツ国内の地理的には北中部といったところでしょうか。ニーダーザクセン州に属し、世界的な自動車メーカーであるフォルクスワーゲンの本社がある街でもあります。
この街に降り立った第一印象を一言で表すと「異様」です。
まずは、ヴォルフスブルク中央駅の目の前にはフォルクスワーゲンの工場群があって、茶色くて太い煙突からは大量の白い煙が吹き出しています。ここはナチス政権下の第二次世界大戦中に軍用車両を多数製造していた場所としても知られ、その武骨な佇まいにただただ圧倒されてしまいました。
中央駅から街の中心部までは徒歩でも楽に行けます。そもそも街中は短いショッピングストリートがあり、そこから繋がる何本かの脇道にレストランや個人経営のホテルなどが点在するだけで、10分程度の散策ですべてを周りきれるくらい小規模な街なのです。
元々何もない平原にフォルクスワーゲンの工場が建ち、そこで働く者たちのために街が築き上げられた歴史的背景がありますので、街を大きくする必要はなかったのでしょう。
ドイツの首都にして最大の都市ベルリンまでは、ドイツ鉄道特急「ICE」を利用すれば約1時間なので、ヴォルフスブルク市民は生活用品購入の用途では街のショップを利用して、大きな買い物や用事は大都市のベルリンまで行くようです。
美容院での予約の名前は……。
当時の長谷部は、髪を切りにベルリンの美容院まで行っていたらしく、その際に素性を知られるのを警戒して予約する際の名前を「Tatsuya Tanaka」にしていたそうです。浦和レッズ時代の先輩の名を名乗っていたんですね。
街中からヴォルフスブルクのホームスタジアム「フォルクスワーゲン・アレナ」までは徒歩で約15分。工場群の横にあり、敷地内には国内の観光名所にもなっている「アウトシュタット」というオートミュージアムがあります。そして、スタジアム脇には自動車を購入した方が納車できる細長いスケルトンのビルが2塔建っています。
この「カータワー」が、なかなかの代物なんです。自分が購入した車が展示物みたいに飾られていて遠目からも視認できるのですが、1塔あたり約400台が収容できるこのビルを宵闇に見ると、車をモチーフにした壮大なオブジェのようにも見えて圧巻です。