炎の一筆入魂BACK NUMBER
初の開幕一軍を目前にして、延期。
カープの若手左腕コンビの心境は?
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2020/04/17 11:40
塹江は高松北高から2015年ドラフト3位で広島に入団。昨年9月には3年ぶりに先発も初勝利ならず。
力任せにせず、“前後”を意識して。
塹江が178cm、高橋樹が176cmと、ともに身長は高くない。
最速150km超の直球に角度があるわけではない塹江は、高低ではなく、前後の使い方に生きる道を見いだした。
「(高さで)角度をつけられるタイプではないので、前後を意識している。走者がいないときでもクイック(モーション)にしたり、二段(モーション)にしたり。身長のアドバンテージはないので、いかに前後の違いを生み出せるか工夫しながらやっています」
力だけで押そうとしていた19歳の塹江はもういない。スライダーの初動を、真っすぐと同じ軌道に乗せられるようになった技術的な向上もある。昨季途中から11試合に登板した自信も今季の支えとなっている。
「自分の球がすごくなくても、打者が少しタイミングがずれることがあれば打ち損じることがある。フリー打撃で全球柵越えする打者はいませんから」
二軍で首脳陣から「打者と勝負できていない」と言われていた意味がようやく分かった。
求めたのは速度ではなく強さ。
高橋樹は花巻東の先輩・菊池雄星(マリナーズ)やDeNAの今永昇太など、日本球界を代表する左腕に弟子入りして、力強さを求めた。高校時代と同じように、プロでも投げて身につけた。今春一軍キャンプで(ブルペン、実戦、実戦形式登板などで)最も投げた投手だった。最終日には投手でただ1人、佐々岡真司監督から監督賞が贈られた。
求めたのは速度ではなく強さ。ただ結果的には、今年のオープン戦の平均球速が昨季までよりも格段に上がっている。
「しっかりいいイメージを持って腕を振れていると思う。今はしっかり自信を持って投げられている」
力強さが制球力の良さを際立たせている。
怖さ知らずでぶつかった若手から中堅へ。もう期待値で起用される立場ではなくなった。抜きん出た能力があるわけではなかった両左腕は己の武器を磨き、それを生かす術も知った。迷いながら、ときには立ち止まり、たどり着いた現在地。その先にあるさらなる高みを目指し、今日もまた歩を進めていく。