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粟生隆寛は肉を切らさず、骨を断つ。
元世界王者、絶品カウンターの記憶。
posted2020/04/16 19:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Mikio Nakai/AFLO
2階級制覇の元世界チャンピオンが、静かにグローブを壁に吊るした。
36歳の誕生日となった4月6日に粟生隆寛は現役引退を発表した。新型コロナウイルスの影響で所属する帝拳ジムも休業中のため、自身のSNSの動画で報告する形となった。
「まったく悔いもありません」と語りながらも「きっぱりとやめられるボクサーは数少ないと思う」と、決断に至るまでには葛藤があったことをうかがわせている。
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2階級目のWBC世界スーパーフェザー級王座から陥落して7年半。以降、栄光を勝ち取ることはできなかった。
2015年5月にはアメリカ・ラスベガスでWBO世界ライト級王座決定戦に臨み、レイムンド・ベルトランに2回TKO負けに終わっている。ベルトランのドーピング違反によって無効試合となったが、世界タイトルマッチはこれが最後に。
左足首の負傷などもあったなかでも、本人は現役続行にこだわってきた。「応援してくれている人たちのためにも」と己を奮い立たせてきたものの、2018年3月の復帰戦を最後にリングからは遠ざかっていた。
千葉・習志野高で史上初の高校6冠。
エリートと呼ばれてきた。
幼少時代から父親にボクシングの手ほどきを受け、千葉・習志野高で史上初の高校6冠を達成して名門ジムの門を叩いたのが2003年。
入門後に出向いたメキシコ修行で、何人もの世界チャンピオンを世に送り出している名トレーナーのイグナシオ“ナチョ”ベリスタインから「世界チャンピオンになれる逸材」と太鼓判を押されている。
しかし本人はエリートという表現を好んでいなかった。
自分をエリートだとは思っていなかったからだ。