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井上尚弥がバトラーを沈めた“あの11ラウンド”に何があったのか?「判定だと思ったら…」大橋会長の想像を超えた“もうひとつ上のギア”

posted2022/12/14 17:29

 
井上尚弥がバトラーを沈めた“あの11ラウンド”に何があったのか?「判定だと思ったら…」大橋会長の想像を超えた“もうひとつ上のギア”<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

11回KO勝ちでバンタム級史上初、そしてアジア人初の4団体統一を成し遂げた井上尚弥。守りに徹するポール・バトラーを剛腕でねじ伏せた

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 歴史は作られた――。12月13日、有明アリーナで開催された日本史上初の4団体統一戦は、WBA&WBC&IBFバンタム級王者の井上尚弥(大橋)がWBO王者のポール・バトラー(英)に11回1分9秒KO勝ち。バンタム級史上初、アジア人初の4団体統一を成し遂げた。

11ラウンド開始前、井上尚弥が見せた「サイン」

 判定決着で終わるわけにはいかなかった。

 井上の初回KOも十分にある。そんな予想も少なくなかった試合は終盤に入っていた。超満員の1万5000人で埋まった有明アリーナが「判定やむなし」のムードに覆われ始める。井上と苦楽をともにしてきた大橋秀行会長も判定決着を覚悟した一人だった。

「今日のバトラーの戦い方されちゃうと勝つのは簡単だけど倒すのは難しい。10ラウンドすぎたあたりでは判定勝ちだと思った。11ラウンドの前にまさか行くのかと思ったら……」

 井上は11ラウンドが始まる前、両足で何度かキャンバスを叩き、左右のグローブを交互に天井へ突き上げた。「さあ、行くぞ!」のサインだ。ゴングと同時に飛び出し、力強いワンツーから左ボディを打ち込んでいく。バトラーはこの日、何度もそうしていたように、自慢のフットワークでエスケープを図る。しかし、「KO負けだけはしたくない」というバトラーの思いを、井上の「絶対にKOで締める」との決意が凌駕した。

「KOして当たり前」上がり続けたファンの期待値

 史上9人目となる4団体統一は井上の悲願とも言えるミッションだった。WBO王座を7度防衛したスーパーフライ級時代から統一戦を目標に掲げたものの、同級では2団体の統一戦さえ実現しなかった。

 バンタム級に上げてWBAのベルトを獲得すると、多数の王者が出場するトーナメント戦「ワールドボクシングスーパーシリーズ(WBSS)」で2本目のベルト(IBF)を手にした。いよいよ4団体統一が現実味を帯びながら、勝者との対戦を見込んでいたWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)とWBO王者ジョンリール・カシメロ(同)の2団体統一戦が消滅。うまくいけば2021年中に4団体統一というプランは先延ばしになった。「遠回りをした」。井上は率直にこう述べている。

 ようやく迎えた4団体統一戦にあたり、井上は「判定は考えていない」と何度も口にした。勝って当たり前、倒して当たり前。インパクトのあるKO勝利を重ねる中で、ファンの期待値は常に上がり続けてきた。

「必ずKOで勝つつもりで準備してきた。判定になっていたら、やりきれない気持ちになっていたと思う」

【次ページ】 「本当に勝つ気があるのか」挑発に込めた思い

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