「オチが取り残されるようなことがあってはならない」

　そうしてナインが外野に走り出したときに、その落合にそっと肩を貸したのが須藤さんだったのである。

「勝った瞬間からオチ（落合）のことが気になっていたんですよ」

　須藤さんは振り返っていた。

「あの試合はね、ケガをして4回に交代してしまったけど、オチの力に負うところが大きかったんです」

　確かに2回に先制本塁打を放ったのも、3回の勝ち越しタイムリーも落合のバットだった。

「交代だって普通なら3回のケガをした時点でとてももうグラウンドに立てる状態ではなかった。それでも流れを変えちゃいかんと思ったんだろうね。激痛に耐えながら、あの回を守り切ってから交代した。

　そのオチが取り残されるようなことがあってはならないって、ずっと彼の姿を見ていたんですよ」

落合は長嶋監督と抱き合って泣いた。

　ベンチからグラウンドに出るときに肩を貸したのも須藤さんだった。みんなの後を追って、最後にレフトスタンド前にたどり着いたときも、落合を支えて歩いたのは須藤さんだった。

　そこでようやく長嶋監督と対面できた落合は、抱き合って泣いたのである。

　「チームが歩いていく後を見回して、落ちているものを拾っていく」

　あの壮絶な戦いを勝ち抜きリーグ優勝を達成した瞬間にも、須藤さんは冷静にチームの落とし物がないか、を見ていたのである。

　それがヘッドコーチという仕事である。

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